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4.アド3



迦葉、だろうか。

なかなか、喜んでとはいかないな。アドの経歴からすれば、確かに、誰かを信頼することの難しさを嫌というほど味わってる。もう、何回か交渉が必要だな。俺の正体を明かしたところで、じゃあってわけでもないだろうし。

ただ、俺が、この街をどうしたいのか、それだけは聞いてもらいたいな。アドは、この街をどうしたいんだろう。

そんなこと、考えもしないかな。

シンカは、扉のガラスから、アドが部屋の外で背を向けて話している後姿を見つめる。それをすり抜けるように、リトル・アドが顔をのぞかせた。扉のガラスの部分に、顔を出して、シンカの存在を確認すると、嬉しそうに笑った。

扉を尻で開けて入ってくる。その手には、危なっかしい持ち方で、盆に載せた飲み物が二つ。

事務手伝い、といったところだろう。

「ありがとう」

「へへ、なあ、何の話?」

二つのうち一つは、どうやら自分の分だったらしい。ちゃっかり両手でそのジュースを抱えると、シンカの隣に座った。

「アドとね、一緒に仕事したいと思ってるんだ」

「へえ、いいな、俺も仕事欲しいよ」

「お前が?」

「なんだよ、俺だって、働けるんだ!まだチビだけどさ、役に立つよ」

ムキになる少年に、シンカは微笑む。子供は素直だな。

「あ、リトル、ちょっと、こっち来いよ」

戸口にいるアドに呼ばれて、少年は慌てて、飲みかけのジュースをぐぐっと口いっぱいに吸い込んでおいて、立ち上がった。

シンカは笑いをこらえる。

「な、ルー、お前、バカだよな」

そういったのは、アドだった。

戸口に立ったまま、手には、銃を持っていた。

立ち上がるシンカ。服の下に一応は、耐熱服を身に着けている。が、頭は無防備だ。右前の構えをとる。

アドは、銃を、傍らの少年の額に当てた。

「アド!」

「おっと、動くなルー。こいつを、殺すぜ」

リトルは一瞬、何のことか分からなかった。アドの大きな手が肩を押さえていて、硬いものが頭に当てられている。それで、ルーを脅すって、どういう、ことなんだ?

「リトル、動くなよ」

アドの声で少年はやっと、自分が人質だということに気付いた。

あわてて頭上のアドを見上げようとする。

「ルー、こいつ、殺してもいいのか?」

「アド、それは、ないだろ」

シンカは睨んだ。何か、おかしな指令が、来たのだろうか。

「いいから、お前、ナイフ出せよ」

シンカはため息を一つついて、腰にさしていた、ナイフを出して、テーブルに置いた。

「手を上げとけ」

言われるがまま、両手を挙げる。リトルは、大きな目をさらに大きくして、アドとシンカを交互に見ていた。

「アド、お前、そんなことまでするのか。リトルを巻き込んでもいいのか?それで、チャンピオンになったって、何の意味があるんだよ」

シンカの言葉を無視して、アドは、背後から部屋に上がってきた、黒い服の男たちに道を譲った。

男たちは、シンカを囲むと、持っていた銃でシンカの太腿を撃った。

一瞬目をつぶって、歯を食いしばる。

「ルー!」

リトルが飛び出そうとするのを、アドが抑える。

「卑怯者!なんでルーを捕まえるんだよ!話するって、約束したのに、どうしてだよ」

リトルの大きな緑の瞳から、アドは目をそらした。

こんな奴に関わって、台無しにしたくないのだ。ここで、試合に出られなくなれば、今まで、何のために苦労してきたのか分からない。

シンカは、男たちに引きずられて、連れて行かれる。

戸口に、さっきの学生がニヤニヤして立っていた。

「気をつけろよ、そいつ、やり手だからな、なんたって、アドを負かしたんだ。なんなら、腕の二、三本は折っておいたほうがいいかもな」

「クーナ、そいつをどうするんだ」

アドの問いに、クーナは笑った。

「ああ、アド、あんたも来てくれよ。こいつが一緒にいた男、ジンロとか言うの、あれ、もともと仲間だったらしいぜ。覚えてた奴がいてさ。今は抜けて、政府の、いや、軍務官の犬になってるらしい。ってことは、こいつも同じだろ。帝国軍情報部のエージェントだ」

アドは、背を向けながら話す学生に、ついて歩きながら、言葉を返した。

「こんな子供がか?」

「おかしくないぜ、俺だって学生だしな。一応」

クーナはにやりと軽薄な笑みを返した。

「お前だってアド。まだ十九だろ、俺より下じゃないか。それでも、組織に関わってるんだ、こいつが情報部だっておかしくはないさ。それより、こいつお前に何の用事だったんだ?」

「…俺の、ファンなんだと」アドは視線をそらす。

ふんと、クーナは鼻で笑った。


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