乙女ゲームが終わった後の転生悪役令嬢と婚約者のお話。
よく分からなかった。俺自身がどうして存在しているのか。なんの為に両親の望むままに成長したのか。俺自身を俺が見失っていたんだ。今思えばおかしいと思うが当時の俺は下らないことを悩み続けていた。そんな悩みを晴らしてくれたのは俺の初恋の人だ。淡い薄桃色の可愛らしい色の髪に湖畔のように蒼く澄んだ瞳。まるで穢れを知らない様な可愛らしい見た目とは裏腹に女性らしい丸みを帯びた身体は多くの人間を魅了していた。
「旦那様……?」
鈴を転がした様な涼し気な声がかかった。俺はライバルに負けて彼女と結ばれることは無かったが……昔の婚約者とそれなりに仲良く暮らしている。昔は可愛いげの欠片もなかった彼女だが妻としてそれなりに連れ添えば可愛げも出てきた。昔はあんなにも嫌っていたと言うのに不思議である。
「あぁ。どうしたんだ?」
「旦那様……貴方は何処の漫画のヒロインですの?考え事をして紅茶を零すだなんて……」
あぁ?えっ!?いつの間にやら白いシャツに紅茶が零れていた。シャツにシミが出来てしまう。
「ああぁ!?うわぁぁぁ……何故、もっと早く言ってくれなかったんだ!」
「まぁ!てっきり気づいていらしたのかと。あぁ、それより、彼女懐妊したそうですわね。あの方は昔から面倒な方だったので……彼女の負担にならなければ宜しいのですが……」
俺の妻はふと顔に影を落とした。本当に彼女の事を心配しているのか……
「彼女が……そうか……あぁ、お前も……お前も子供が欲しいのか?」
「いいえ?まぁ……お義母様もお義父様も跡継ぎがどうのこうのと面倒なのでさっさと愛人なり何処かの誰かと子供を授かって私を解放して欲しいわ。」
どうも……妻は擦れている。俺の顔は悪くない筈だ……妻にとって何が足りないのだろうか……
「なぁ……お前は俺の子を産みたくないのか……?」
「はい、旦那様の子供は産みたくないですね。」
ニコニコと愛らしい笑を浮かべた彼女からの言葉は辛辣極まりなかった。
「何が足りない……お前はあの方が好きだったな……もしかしてあの食えない性格か!?俺には無理だぞ!?」
「そうですわね……胸ですか?まさか!!あれはゲームの強制力ですわ!」
返ってきた返答は奇異だった。男に求める理想が可笑しすぎる……あれか!?少しポッチャリしたマシュマロ女子ならぬマシュマロ男子が好きなのか!?くっ……職業柄マシュマロ男子にはなれん…
「理由の分からない勘違いをしてそうですが、違いますわよ。私は女の子が好きなのですわ!!乱暴しませんし、可愛らしくて柔らかいですし……あぁ!!素晴らしきかな女の子ですわ!!」
「そうか、だが……ごめんな。今の時代一夫多妻は不可能だから俺の子を産んでくれ。」
「嫌ですわ!!それなら、他所に愛人でも作れば宜しくてよ!!彼女似の可愛らしい愛人でもなんでも作って下さいまし!!そして、2度と私の前に現れないでください!!割と切実に!!」
そんなとんでもない発言を叫ぶ彼女でも抱きしめれば頬を染めて可愛らしく俯くものだから愛おしくて仕方ないのは長い時間寝起きを共にして情が湧いたせいだろうか?