1-2 幸運な私
「今日はどうしたの?」
隣の席の不幸くんが席に着いてから尋ねる
なぜか、彼は毎回ボロボロになって登校してくる
それが気になって思い切って話しかけてみてから毎回、この質問をしている
そして、彼も毎回律儀に答えてくれる
「家の敷地内から出たとたんに、トラックが家に突っ込んできた」
なぜ彼が無事なのかはもう考えないことにしているから、それ以外の感想を言ってみる
「今日からどこに泊まるのかしら?それで?」
恐らくこの話には続きがあるのでしょう
彼はいつも二回以上不幸な目にあってようやく学校にたどり着けるのですから
「家の近きを犬の散歩に来ていたおばあさんが驚いてリードを放してその犬に襲われた」
意外と普通な不幸だったわね
・・・普通の不幸ってなんなのかしら
「いきなりしょぼくなったわね。それで?」
これで終わりだと少し拍子抜けするわね
・・・いえ、トラックが家に突っ込むだけで十分不幸だとは思うのだけれど
「それで終わり」
つまり、頭から血を流しているのはトラックにはねられたからで、制服がボロボロなのは犬が原因と
「そう、それは災難だったわね。それでもいつもより軽いほうかしら?・・・あなたが不幸な目に合ってるから私が幸運になるのかと真剣に思い始めたわ」
「ということは今日もまた幸運なことがあったの?」
「もちろん」
私はニコっと笑って話し始める
「朝、10万円ほど入った財布を拾ったわ」
「その財布はどうした?」
「勿論、警察に届けたわよ」
「偉いね。それで?」
「書類を書き終わったと同時に持ち主が見つかったわ」
「よかったじゃないか。それで?」
「持ち主から二万円ほど頂いたわ」
「上限までお金をくれるなんて優しい人じゃないか。それで?」
「もう少しお礼がしたいからと連絡先をもらったわ」
「・・・持ち主の性別は?」
「男よ」
「連絡しないほうがいいと思うけど」
「あなたと違って下心がなさそうだったわよ?」
「僕と違うってことは下心丸出しってことになるんだけど・・・そもそも、幸運さんが話しかけてこなければ話さないし」
「それはちょっとひどいわね。まあこの話はこれでおしまい。もうそろそろ担任がくるわよ?」
そういうとほぼ同時に担任が教室のドアを開けた