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ラフメイカー(仮)  作者: ナナシのケン
8/8

第8話 生き抜いて行く覚悟

 (まずい。まずい。まずい。まずい。まずい!)

 

 後方から届いた遠吠えが前方のオオカミ達にも届き、オオカミ達が反転する。その結果、徹は前後からオオカミ達に挟み撃ちされる状態になった。


 (しくった! 後ろとの距離を見誤った! 逃げ場は……ないか。挟み撃ちか。絶体絶命やな。まさに前門の狼、後門の狼! ……ってそれ一緒やないか! ……あかん、そんな事考えとる場合やない……現状、前が3匹で、後ろはよぉ〜分からんけど、前が4匹おった事考えると、4匹以下ってことはないやろな。はぁ〜……きついけど、やるしかあれへんな。)


 覚悟を決め前方のオオカミ達に突っ込む。


 (後ろの奴らが来るまでが勝負。多少無理してでもここは押し通さないと負け。つまり死ぬ。まだ生まれて数日、死ぬには早いやろ! 漢、徹! 生き残るため、己が覚悟押し通させてもらうぞ!)


 徹の気迫に押されたのか、前方のオオカミ達は接近する徹に反応出来ないでいた。


 「いっとけ、おら!」


 まっすぐにオオカミに突撃した徹は、自身の影から生み出した剣でオオカミを縦に両断しながら、速度を落とさず次のオオカミに向かう。


 しかし残ったオオカミ達も黙ってやられるはずが無い。

 普通の人間ならば、頭部を丸ごと潰せるほどの巨大な前足を、真正面から向かってくる徹に振り下ろす。

 オオカミの強靭な前足の振り下ろしは振り終えるまで、常人では目で追う事が出来ない早さで行使された。

 巨大な前足の質量と相まって、その一撃で轟音とともに大地がめくれ上がる。

 徹の動きに合わして振り下ろされた一撃は、普通であれば回避がほぼ不可能な一撃だった。

 というよりオオカミの動体視力を持ってすれば、普通の生物であれば、横に避けられようが当てる事は出来る。ましてや眼前で標的が消える事が無い限り必中と言っても過言ではない。

 

 徹に前足を振り下ろしたオオカミは仕留めた!とばかりに天を仰ぎ、勝利の雄叫びをあげる。


 しかし、その雄叫びはオオカミが真っ二つになった事で途切れた。


 「やかましい! そんな子供騙しの犬パンチなんぞ食らうか! 次はおまえや!」


 真っ二つになったオオカミの真下から現れた徹が吠えながら、最後のオオカミに突っ込む。


 それを見て、オオカミも徹に突っ込む。

 強靭な四肢が地を蹴り、瞬時に最高速に到達する。

 徹の突進の速度の倍は有に超える。

 オオカミは巨大な口を開けて自慢の牙で、徹は自身の影から作り出した愛刀で向かい打つ。

 お互いの全力の突進で、両者の距離は一瞬にして0となる。


 その刹那、オオカミは見た。

 徹が消える瞬間を。

 確かにその場にいたはずのものが、予兆も音もなく消えた。

 自らの動体視力を持ってしても、消えたとしか表現できない。

 その状況に本能が警笛を鳴らす。

 おかしい。認識出来ない。この状況は危険。すぐに逃げろ。

 しかし、その警笛は意味を為さなかった。

 徹の存在した場所を通過した時にはもう何もかもが遅かった。

 

 「なんとか倒し終えたけど……」


 一息つきながら振り返ると、地鳴りの様な音を鳴らしながら走る8匹のオオカミの群れがこちらを向いていた。


 「おいおいおいおい……いくらなんでも多過ぎるやろ……やられたら倍返しか? それとも倍プッシュか? どっちにしても人生諦めそうなんやけど……まぁやるしか無いよな。はぁ〜しんどっ。」


 先ほどの生きる覚悟を全て吹っ飛ばされそうになる心を抑えて、突っ込んでくる8匹のオオカミに対峙する。


 「死にたい奴から突っ込んでこい!」


 挑発を受けたオオカミ達が、真正面、正面の斜め左と右の3方向から突進の勢いを乗せた前足の振り下ろしを同時に放つ。

 1つ1つが今の徹には必殺の一撃になりかねない。

 3匹の振り下ろしが大地を打ち轟音とともに砂塵を巻き上げ、大地を割る。

 3方向からの攻撃をバックステップでギリギリ避けながら悪態をつく。


 「突っ込んでこいって言ったけど、1匹ずつに決まっとるやろ! ふざけてんか!」


 そんな徹の怒声も、轟音でかき消されているのか、ただ単に知った事では無いと無視されているのか。3匹を飛び越え、新たな2匹が鋭利な爪を徹に向け突っ込んでくる。

 飛びかかってくる2匹の下を潜るように爪を避ける。


 「またか! 言う事きかん子は先生嫌いですよ! 1匹ずつ順番にお願いします。まじで!」


 しかし、その叫びは聞き届けられる事は無く、回り込んでいた3匹と最初に突撃してきた3匹が6方向から同時に前足を振り下ろす。


 「これ逃げ場ない? やばっ!」


 6匹同時の振り下ろしによって地面が陥没し、元あった地面が爆発四散する。

 先ほどまでの威力と格段に違う。直撃していなくても衝撃の余波だけでも、普通の生物なら消し飛んでいる威力だった。

 しかし砂塵が晴れたそこには徹はいない。それどころか6匹の同時攻撃だったはずが、5匹分の前足しかない。

 そして消えた1匹の後方にいる黒い影が物語る。

 あの短時間で、あの状況から抜け出し、さらに仲間を1匹消したのだと。

 7匹はこのとき本能からの警笛を感じた。こいつは何かがおかしい。

 これまで狩ってきたどの生物とも違う。

 しかし、7対1という状況。仲間を何匹もやられているという状況。それらの現実がこの場からただおかしいと感じるだけで逃げるという事を許さない。もちろん、やられたままで終わるというのも許さない。

 ゆえに7匹は徹を囲い込み、相手の逃げるという選択肢を潰し、相手の動きに制限をかける。

 

 「えらいびびっとるみたいやん。そんな状態で戦えんのか?」


 雰囲気が変わった事に気付き、不敵に笑みを浮かべる。


 オオカミ達も言葉は分からずとも雰囲気でこけにされていることに気づき、唸りを上げるが、徹という得体の知れない相手であるため襲いかかれないでいた。


 「なんやえらい大人しなったな。そっちがかかって来んなら、こっちから……いくでぇー!」


 弾丸のように1匹のオオカミに向かって飛び出し、影の剣で斬り掛かる。

 オオカミはそれを自慢の鋭利な爪で向かい打つ。

 幾多の獲物を切り裂いたこの爪と、強靭な四肢から放たれる振り下ろし。

 徹の持っている黒い塊、か細い身体。

 力で負けるはずがないという自信が、本能の警笛を無視しオオカミを突き動かした。


 影と爪が重なりあう。こんなもの押し込めば、撥ね除ける事が出来る。

 本能の警笛がピークに達する。退け! 逃げろ! と。

 だが後少しでこの得体の知れない奴を仕留める事が出来る。

 そんな希望がオオカミを1歩前に進ませた。


 そして気付く。自らの信じた爪を通り抜けて、自らの誇った四肢へと進んでいく黒い塊がある事に。

 そして気付く。その黒い塊の終着点が自分の命を断つ場所へ向かっている事に。

 そして気付く。警笛が鳴り止んでいることに。

 まるで、もう遅い。間に合わない。というように。




 「まず、ひとぉーつっ! 次いくぞ!」


 真正面からオオカミを一刀のもとに切り捨てる。そして次のオオカミの喉元に切り上げを放つ。

 

 仲間の自信を砕かれる様な無念な死に方を見て、オオカミ達の動きが止まる。


 「ふたぁーつっ!」


 放心状態のオオカミの首を一瞬で撥ね飛ばす。まるで空気を斬るように抵抗を一切感じさせないスピードと軌道で。

 そしてそのまま流れるように3匹目に袈裟切りを放つ。


 異常なほどの早さで仲間が死んでいく光景を目の当たりにし、全く動けない。


 「みっつぅー!」


 3匹目も一刀の元に切り捨てる。

 オオカミ達にまだ反応が無い事に気づき勝負をかける。

 4、5匹目の間に踏み込み、2匹の頭を狙って横薙ぎを放つ。


 4匹目は綺麗に横薙ぎが入り、頭部の上半分が飛んでいった。

 5匹目は刃が届く直前に意識を取り戻し後退しようとしたが……


 「逃げんじゃねぇ!」


 徹の気迫の籠った喝で硬直し4匹目と同じ運命をたどった。


 「いつーつっ! 次いく…あぶねっ! ……ようやくお目覚めか? ちぃーとばかし遅かったんやないか? あと2匹だけやぞ」


 意識を取り戻したオオカミの噛み付きを、体勢を崩しながらも寸前で避け、転がって距離をとる。そして数の差を覆し優位を取ったと告げる。


 低く唸りを上げ、威嚇するオオカミ達だが、状況は絶望的だった。

 しかし、もう退く事はできない。

 1匹が徹に向かって飛び出す。もう1匹も続いて飛び出す。


 先鋒きったオオカミが徹に牙を剥き出して襲いかかる。

 しかしそれは愚策。

 徹は上段に構えた影の剣を振り下ろす。

 その剣は容易くオオカミの命を切り裂いた。

 しかし、オオカミ達もただで終わる訳が無い。


 「うがぁぁぁ! くそったれ!」


 そのオオカミの陰から現れたもう1匹が徹の左腕を噛みちぎる。

 徹の追撃を躱し、距離を取る。

 


 「調子に乗んなよ! もうお前1匹や。さっきみたいな真似はもうできんぞ。おとなしく……やられとけ!」


 瞬発的に1歩踏み込み、剣の間合いに持っていく。

 その間合いを読み切り、オオカミは後退し、間合いから外れるが……


 「なめんなや! 伸びろ!」


 影の剣が伸び、横薙ぎがオオカミの眉間を切り裂いた。

 オオカミの身体がゆっくりと傾き、倒れる。


 「はぁ〜……生き残ったぁ〜。死ぬか思たぁ〜。」


 徹もその場で仰向けに倒れ込む。

 倒れ込んだ横には、黒い噛みちぎられた腕が落ちていた。徹はそれを手に取り、眺める。


 「くそったれ……腕持ってかれた。今は痛み無いけど。これどうするかなぁ〜。くっつくかな?」


 上半身を起こし、千切れた腕を元の場所に添えると何かが繋がった感覚があった。


 「おぉ? おおっ! ついた! いやぁ〜なんでもやってみるもんやな! 助かった〜。こんな序盤でハンデ背負うとか、そんなマゾプレイにならんですんだ〜」


 ほっとした徹は再び大地に身をあずけた。


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