第7話 狩りdeレベリング
「あちゃぁぁー!!」
徹は肉に齧り付き、1秒も立たずに齧り付いていた肉を宙に投げ出した。
「あっちー。って、ヤバッ!」
肉を手放した事に気付き、慌てて肉を飛ばした方向へダイブする。そして地面に落ちる間一髪のところでキャッチした。
「あぶねー、貴重な食料……がぁぁぁ! あついわー! ……ハッ! しまったぁぁ!」
しかし芸人の性か、熱いものにはリアクションをとってしまう。気付いた時にはまた肉は、空を舞っていた。
次の瞬間。空を舞っていた肉が黒い影にさらわれる。その影は徹の元に来ると静止した。
「最初からこうしとけば良かったわ」
と言いながら影から肉を取る。
「んじゃ改めて、いただきますっと」
2回も宙を舞ったおかげで、程よく冷めていた肉に齧り付く。
「むぐむぐむぐ……これは……微妙やな〜味はまだええんやけど、臭みがあかんな。あと固いわ。顎、めっちゃ疲れる」
と文句を言いながらも全部食べきったあと、洞窟にもどって寝転がる。
「やっと飯が食えたな。長かった〜。ここまでほんまに長かった〜」
冷えた石の床が気持ちよく、全身をぴったりと引っ付けるように伸びをする。
しばらく冷えた床でくつろいだ後。ふと思った事を口にした。
「ここでとりあえずの目標を作っておくか。まずは衣食住やな。って言っても衣に関しては気にせんでええけど。」
(今も全裸みたいなもんやし、風邪なんか引かんやろうし)
そう言いながら壁に目標を刻んでいく。もちろん影で。
「次は……やっぱりレベル上げか。強くならん事にはどうしようもならんような世界やからな。世知辛い世の中ですわ」
(そういえば今どれぐらいになってんやろ? 見てみるか)
「『ステータス』!」
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ステータス
名前 :テツ ドウジマ
性別 :男(♂)
レベル:2
種族 :ナイトストーカーLv1
スキル:影操作Lv1、隠密Lv1、吸収Lv1、気配探知Lv1
ギフト:適性変化【影】、鑑定眼、アイテムボックス
称号 :加護を承けし者
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「おぉ! レベル上がってる! 1だけやけど。それにスキルが増えてる! 『気配探知』か……気配を感じれる様になるんかな? 全くなんも感じへんけど、これは使えてるんか? まぁええか。なんにしても、なんか倒せばレベルが上がるってことは確認出来たし、行動開始と行きますか」
自信に気合いを入れながら立ち上がり、洞窟を出る。
「さてと、レベル上げって言ってもガチンコ勝負ばっかりしとったら身体が持てへんし、ここは知恵あるものとして狩りをしよか」
覚えたての気配探知を使う意識をしながら、森の中を探索する。同時に隠密行動を意識する。
しばらくすると右前方に何かを感じ、その場に潜む。
(あれは〜サル? いや大きさ的にゴリラか?)
そこには3匹のゴリラがくつろいでいた。3匹は円を作る様に座っており、中央にはいろいろな果物が置かれていた。
(あの果物が食料か。ならあいつらは見張りってわけか。さてどうするか。おびき出してみるか)
小石を拾い、テツから一番離れたゴリラの近くにある木に向かって石を投げる。
カツンっと音を立て石が転がる。
3匹の内、一番木に近かった1匹が音に気付き、2匹から離れて音のなった方へ近づいていく。
それを見たテツはすかさず、また石を拾い、離れたゴリラを誘導するため石を投げる。
するとまたカツンっと音を立てた方向にゴリラが近づいていく。
それを何度か繰り返す。ゴリラはただただ音の方向へ近づいていく。
(かなり知能が低いんか? それとも絶対強者みたいなやつか?)
テツは一抹の不安を抱えながらも決心する。
(こんだけ離せば大丈夫やろ。ほないくでぇ!)
ゴリラの背後を位置取っていたテツは身を屈めたまま疾走する。
ゴリラは後ろから音が聞こえた事で振り向くが、視界には何もいない。そう思って向き直ろうとするが、そこで意識を刈り取られた。
「上出来やな。サクっといけたわ。やっぱこの影、便利やわぁ。攻めてよし、隠れてよし、欺いてよし。なんか忍者やってる気分やわ。シュシュシュってか?手裏剣みたいに影は飛ばせんみたいやけどっ。なんにしても簡単な任務だったでござるな。にんにん」
さっきテツがした事は、身を屈めて、自分の身体の色を生かして見つからないように近づき、ゴリラの影に滑り込み、死角から首を一閃。という流れであった。
「こいつの肉も不味そうやなぁ、吸収でえっか。そー言えば、吸収って結局どういうスキルか分からへんな。初めて吸収した時は充実感あったから、腹が膨れるんかなぁって思ったけど違うみたいやしぃ。まぁ処理用ってことでええか」
ゴリラの死体に手を触れ、吸収を使う。まるでそこには何も無かったかの様にゴリラだった物が消える。
「ほな、あと2体もパパッとやってしまおか」
そう言いながら身を屈めゆっくりと、ゴリラのいた場所へ戻る。そこには未だのんきにくつろいでいるゴリラ2匹がいた。
気付かれない様に暗い場所を伝って背後の茂みまで近づく。そして先ほどと同じように、遠い方のゴリラの気をそらすため、石を投げる。
石はちょうどゴリラの後ろの茂みに入りガサガサっと音を立てた。
その音を聞いたゴリラ達が音の方へ動き出す瞬間、徹は茂みから飛び出し、手前のゴリラに迫り、振り返る間も与えずに背後から首を落とした。
先行していたゴリラが後ろから物音が聞こえたのか振り向くが、そこには何もいない。何もいなかった。物音の正体だけでなく、仲間のゴリラの姿すらもなかった。だがなぜ仲間の姿が無くなっているのか、それを理解する時間はゴリラには無かった。
「よし。完璧やったな。ステルスミッションしてるみたいでけっこう楽しいな! まぁスキルがスキルなだけに、こんな作戦の方が効率良さそうやな。よし! この調子でガンガンいくで!」
ゴリラの死体を吸収し終えてから、次の獲物を探しに森の中を探索する。
気配探知はそれなりに使えた。意識をすれば、探知範囲は自分を中心に約20mまでで、範囲内に生物(自分と同じかそれ以上の大きさの)がいた時に感じ取れるようだった。
「順調、順調っと。ほな次は……あっちか。数は4ぐらいか? とりあえず様子見に行こか」
気配を頼りに木の影から様子を窺いつつ、気配に近い木の影に移動していく。
「オオカミの群れみたいやな。ちょっと離れたところにも気配感じるけど、多分それもこいつ等の仲間やろな。ちょっと数多いから、やめとこかなぁ〜。いやでも慣れてきたし、さっきのゴリラも余裕やったしなぁ〜。誘い出せばいけるか? う〜ん、やってやれんこともないか。よし! 行くか!」
先行している? 4匹のオオカミの後方にヌルリと近づく。しばらく真後ろについたままで様子を窺うが気づかれている様子は無い。
(これはいけるな。後ろから1匹ずつ狩らせてもらおか)
姿勢を低くし、音無く、地面を滑るように移動する。
そして真横から一刀の元に首と胴体を断つ。断たれた首からは血の代わり黒い影が溢れ出し、すべてを覆い、吸収する。ここまでわずか2秒弱。
影の扱いに慣れてきたからこそ出来る事だった。
まさに一瞬。
何かに気づいて振り返ったとしても、先ほどのゴリラ同様気づく事が出来ない早業。
徹も先ほどのゴリラでこの早業を使って気づかれる事は無いと確信していた。
結果は当然、前方にいた残り3匹には気付いた様子は無かった。
(よし! まず1匹。気づかれた様子も無いな。これはいけたな)
徹はそう確信し、頬を緩ませる。賭けに勝ったと。
徹は次の獲物を狩るために動く。物音は立てない。
しかし徹は学習していなかった。気を抜き油断した。
徹は後方の警戒を怠った。徹の驕りを打ち砕くように。
後方から複数の遠吠えが森に響いた。