第4話 異世界サバイバル
「なんこれ?」
徹は岩に対して影の刀を振るったが、影の刀は抵抗も無く岩をすり抜けた。その光景に意味が分からずクルトに現状を聞くため振り返る。
「なぁクルトさん? これどうなってんの?」
「どうなっているとは? 岩なら両断出来ていますよ? 岩の上辺りから横に押してみて下さい」
「はぁ? まぁやってみるけどやなぁ、手応え一切無かったで? そんなんで切れてるわけ……って、えぇ!?」
手で押した瞬間、岩は斬った軌道で2つに別れ上の部分がずり落ちていき、ズドーンっと大きな音を立てて地面に落ちた。
「手応え一切あれへんかったんやけど……物理法則さん仕事してへんやん……」
「鉄の様に固くしたとはいえ、元は影なので質量自体はないです。岩を斬れる固さでイメージしていたのであれば斬る事ができます。つまりその剣は斬れると思えば何でも斬れます」
「それなんていうチート? 強すぎるんですけど……いやまぁ強い事にこした事はないんやけど」
「もちろん弱点はございます。斬れないと思えば斬れませんし、影が無ければそもそも使えません。なので、真っ暗闇の空間や強力な光で消えてしまいます」
あぁ要は想像力しだいってことか。まぁ影ができへんかったらそもそも使えへんのは自明の理やしな。ん?
「1つ気になってんけど、俺のこの身体って影なんか?」
影やとしたら致命的過ぎるぞ……
「いえ、影とは似て非なるものです。なので質量もありますし……そういえば魔族の説明はしていませんでしたね? 今しますか?」
「なら、頼むわ」
俺の中でかなり重要な事をさらっと流したな。ほんまクルトはさらっと重要なことを言うから、聞き逃さん様にせんとな。
「魔族と魔物の元になる核は、つまり人間でいう心臓に近い部分が、魔核といわれるものでできていて、その性質、形状、大きさ、魔力の純度、総量で生物として、魔族なのか、魔物なのか決まります。また、魔核が取り込んだベースの魔力によって、種族が変わります。あと、微妙なベースの魔力の濃さや、多さは人間でいう個性などを決める要因でもあります。なので全く同じ魔核はほとんどございません」
「ほぉ〜。なら魔族か魔物かも魔核で決まるわけやね?」
「そうなります。また、テツさんのようなベースが物質でない場合は、魔核のエネルギーが物質化し、形作っているため、質量もあります」
クルトの言葉を噛みしめ、よく考えて発言する。
「ってことは、俺は魔核のエネルギーが無くなったりすると、死ぬってことか?」
「そういうことになりますね! あとベースが物質であっても、非物質であっても魔核のエネルギーによって、生物としての強い身体が作られています。」
説明を分かったくれた事に喜んでいることは分かるんやけど、そのタイミングで喜ばれると、俺が死ぬのがうれしい様に捉えられてしまうんやけど、俺が気にし過ぎか?
「んで、また疑問ができたんやが、魔核自体も生物って扱いなんか?」
さっきまでの話しを聞く限り、魔核が生物としての身体を作っとる。なら、魔核を生物として考え、魔核が成長してレベルが上がると、魔核が作る身体が強くなると考えるのが妥当やろ。
「はい? 考えた事はありませんでしたが、魔核も生物の一部という感じではないでしょうか?」
そこらへんも教えといたれよ、神様〜。ほんま適当やな〜。
「では最後の『称号』? ですが……これは……えーっと……そう! 称号もらった時に説明がでますので、そちらで確認して下さい!」
クルトさん……絶対忘れてるやん。思い出せんから丸投げやん。まぁええけども。
「あ、あぁ了解や」
「これで『ステータス』について全部説明しましたね。「称ご…」しましたね! 「ソウデスネ」では私は仕事がありますので、失礼しますね」
勢いと圧力で有無を言わせず言い切るクルトさん。
「いや、まだ結構教えてもらいたい事があるんやけど……」
「そうは言われましても……私が知っている世界の事といえばステータスぐらいしかございませんので……」
あのクソ神がー! ちゃんと仕事せんかー! 『報連相』ならってへんのかー!
「そんなら、どこ向かえば安全とか教えてくれへん?」
「そうですね……南には行かない方が良いとしか分からないですね。魔族領の南側は人の領土と繋がっていますから」
「人とあったら拙いんか?」
「魔物と魔族の差を教えましたよね? その時どうおもいましたか?」
「遠目からは違いが分からんから、近づいて来たらとりあえず逃げよって思ったかな」
「では力があれば?」
「そりゃ倒してもうた方がはや……いよな……そういうことか」
あっちからしたら、どっちも敵やねんな。だから問答無用で攻撃されるか。
「なので、南以外と助言致します」
「わかった。強くなるまでは南にはいかんわ」
「そうですね。まずは強くなられるのが良いかと思います。ではご迷惑をおかけしたお詫びに、ギフトを授けます。あまり良いものは私の権限ではお渡し出来ませんが……」
暖かい光の玉の様なものがクルトとから現れ、徹の身体に入っていく。それは、やわらかく、暖かい日の光に照らされている様な感覚だった。
光の玉が入りきると、力が溢れ……ては、こなかった。
「テツさんに授けたギフトは、『鑑定眼』と『アイテムボックス』になります。『鑑定眼』は、見ようとしたもののステータスを見る事ができます。ただし、自分より強い生物には、見られる内容に制限がかかります。『アイテムボックス』については簡単にいえば、某便利ロボの4次元ポケットです」
「おぉ! ありがとう! これはありがたいわ!」
この鑑定眼! 力量差が分かるって最高のギフトやん! このアイテムボックスは……今は使い道あれへんな……
「よろこんでいただけて何よりです。では私はこの辺でおいとまします。……実はこの世界に干渉しすぎると、世界のバランスが崩れてしまうので、サポートは今回限りになります。申し訳ございません。それと……ご武運を」
「おぅ! こんだけしてもうたら、さすがに文句言えんわ! あとはなんとか頑張るわ! じゃーな。そっちも仕事頑張れよ!」
クルトは徹に、ほほえみを1つ返すと、姿がブレて、スッと消えた。
「ほな、これからどーしよーかなー。とりあえずレベル上げかー」
とぼやいたところでおなかがなった。
「そのまえに、食料調達やなーさてどないしよか……」
現代人が森の中で独り。
サバイバル技術もなし。
むしろ異世界の森で危険しか無い。
食い物も見つけられるかどうか怪しい。
う〜ん……これ詰んだか?
「クルトさーん! カムバッーク! プリーズ! ギブミー! ショクリョ―!」
半泣きで叫ぶがクルトは現れず。ちくしょうめ!
「俺の馬鹿野郎……食料無きゃどうしようもねーだろ……」
そんな風に落ち込んでいると、1枚の紙がひらひらと落ちてきた。
「なんやこれ?」
そこには「是非、アイテムボックスを使って下さい。クルト」と書かれてあった。
言われた通りにアイテムボックスを使う。ステータス開くときと同じ感じでええんかな?
「『アイテムボックス』っと、おお!」
気がつけば目の前の空間が切れて歪んでいた。
「ここになにがあるんや?」
と口にすると半透明のボードが現れた。そこには
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・革製の鞄(異世界産)
・Tシャツ(異世界産)
・ジーパン(異世界産)
・スニーカー(異世界産)
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これって、俺が着とったやつか? とりあえず出してみるか。
空間の切れ目に手を入れて全て取り出す。欲しいものを考えていれば、手に持たせてくれるみたいや。
「おぉ〜。これ、全部俺のやん……ってことは!」
何かを思い出して、勢い良く鞄をあさる徹。
「あった……あったで……勝った……サバイバル……攻略やー!」
と鞄を漁って見つけた、ものを高々と掲げ、サバイバル攻略宣言をする。その時の表情は恍惚としたものであった。
徹が見つけたそれは、高カロリーでありながら、ほぼ全ての食材と合わせる事ができ、まずい食材でも食べられる様にしてくれる。さらに腐りにくいという特徴もある。実にサバイバル向けの食品だ。
もうお気づきであるだろう。その掲げられたものは……
「マ・ヨ・ネーズ取ったどー!!」