第2話 どうやら異世界とやらにきてしまったらしい
「え?」
クルトからもたらされた2つの情報に、目を白黒と反転させ、魚のように口をパクパクさせながらなんとかひねり出した疑問と驚き。それらを理解する前に再びクルトが語り出す。
「今日、テツさんに起った事は全て、私の主であるアルテール=クトハ様が原因でございます。」
「なんやて? そしたら、今日俺が電車に轢かれたっちゅーんは……」
「事実です。堂島さんは今日電車に轢かれました。そうなったのも、主様が原因でございます」
「というと、この見た事無い森におるんも……」
「主様の所為でございます」
「この黒い影みたいな身体も……」
「それは……いや、それも……主様の所為でございます」
「なるほどな。今日起った事は全部クルトの主様の所為やったんか。だから今日の朝、ギリギリにしか起きられへんかってんな。うんうん。運命がそうなる様になってたなら、仕方なかったな」
「いや、それは主様とは関係な「いやーよかったー。これで薫に怒られんで済むわー」いとは言い切れませんね」
徹の勢いに気圧されて、関係がないときっぱり言えなかったクルトは、こほんっと咳払いをして、話しを戻した。
「そういった事情がありまして、主様の代理である私が謝罪に参った次第です。重ねて申し上げますが、今回の一連の出来事申し訳ございませんでした」
再び土下座の体勢で、地面に額を擦り付け謝罪する。
「もうええから頭あげて。話しづらいわ。んなら質問に答えてんか?」
「私の分かる範囲でしたら何でもお答えします」
まだイマイチ自分が死んでいるということが腑に落ちず、怒っていいものかどうかわからない徹は、とりあえず現状の把握を最優先にするため、質問する事にした。
「ならまず、クルトさんの主様って何者や?」
「この世界の創造神です」
「へ?」
気が抜けたような返答をしてしまったが、何者って聞いて神様ですって答えられれば誰でも今の徹の様になるだろう。ナルダロ?
「んな、なんで主様が原因で俺が電車に轢かれたんや?」
神ってなんやねん!とツッコミ入れたい所を押さえて、あえて神様という創造上の生き物には触れずに、話しを進める。どうせ聞いても、え? 創造神は創造神ですよ? とか返ってきそうだからね。
「路線に落ちる前に何かに押されませんでしたか?」
「あぁ、いきなり後ろからタックルくらったみたいな衝撃やったな」
「その衝撃の原因が主様です。次元転移を使ってそちらの世界に転移する際に、座標を決めるのですが……今回適当に決めたらしく、それがちょうどテツさんの立っていた場所になってしまったみたいです」
「ん? 座標が重なったってことは分かったけど、そのことは、俺が吹き飛ばされたのと関係あるん?」
「では例えですが、同じ場所に人は一緒に立てませんよね? ……上に立つとかそういうのは考えないで下さい。座標は縦、横、高さで立体的に指定するものなので」
まるで徹が考えている事が分かった様に釘を刺してくるクルト。
「そして転移は、その転移先に自分が所持する質量の、4分の1以上の質量を持ったものがあった場合キャンセルされます」
「そしたら今回の転移もキャンセルされたんやないん? なんで成功してんの?」
「そこは主様だからという他ないですね。転移先のものを空間ごとはじき出したみたいです。それによって普段では考えられない事故が起ったのです。本当に自分勝手な主で申し訳ございません」
「いやもうクルトさんが謝る事では無いと思うし、謝らんでええよ。クルトさんも被害者やろ? んなら次の質問やけど、ここはどこなん?」
聞かされた成功の理由が、神による力技というので唖然としたものの、納得はできたので、クルトをフォローしつつ次の質問をする。
「ここ、というのはこの森でしょうか? それともこの世界のことでしょうか? この森でしたら魔族領の北部にあります。ガラクの森でございます」
「ここはガラクっちゅー森なんかー……ん? この世界ってどういうこと? ここって地球やないん?」
「ここはアギリクトム。創造神アルテール=クトハ様が作られた世界です」
薄々は感じてたけど、やっぱり地球じゃないよなーあんな大きなオオカミ見た事あれへんし。この木もでか過ぎるし。
ここが地球で無い事を、ある程度予想出来ていた徹は、今一番の疑問を投げ掛ける。
「んで、一番気になっててんけど、この身体って元に戻らんの? てかこの黒い影みたいなんはなんなん?」
「結論から言えば、テツさんの身体は戻りません。テツさんは地球で1度死んでいますので、今の状態は転生した姿という事になっています。ではなぜその様な身体なのかと申し上げますと、転生の際に魂が、主様が行った転移の際に開いた空間の歪みに入ってしまい、こちらの世界に来てしまいました。そこで急遽こちらの世界での転生になったのですが、主様は地球の方に出掛けられておりましたので、代わりに私が転生を行いました。しかしそのような事態は初めてだったので、手違いでそのような姿になってしまいました……」
「つまりは……」
「私の所為なのです! 本当に申し訳ございません!」
そう言うと再び土下座で、額を地面に擦り付けながら謝るクルト。
「もうええっちゅうねん! 転生の担当をしたんは初めてやったんやろ?」
「はい……ですが「なら終いやクルトさんが謝る事はあれへん。ええな?」はい……」
上司のミスを被る部下の様に見えて、無性に腹が立ってきた徹は無理矢理に話しを終わらせた。
「クルトは悪ない。全部その主が悪い。やからもう謝るんやないで?」
なだめる様に優しい口調で言うが腹が立っているため、尖った言い方になってしまった。そのためクルトがおびえて見えた徹は話題を返るため明るく言う。
「そんでこの身体はなんや? モンスターか? 影みたいやけどなんて言う種族や?」
「え? はい。えーと。今のテツさんは魔族になります。種族はシャドーウォーカーという種族です」
いきなり声のトーンと雰囲気が明るく変わったのに驚きつつ、しっかりと受け答えをするクルト。
「シャドーウォーカーってそのまんまやん。ネーミングセンスな! てか光り当たったら、俺消えてまうんちゃう? 怖いわー昼間に外、出歩けんやん。出歩けても影の所だけやん。あっ、だからシャドーウォーカーか! なかなか考えられた名前やったわー。んで昼間は外出控えよう思う俺やけど、ここからどうすればええんやろ? なぁクルトさん」
冗談を交えつつクルトが話しやすい様にしていく。俺って気が利くわー。なんかすっごい、引かれてる気もするけど。
「えーと、ではまずはこの世界にていて教えますね? この世界アギリクトムにはステータスというものがあります」
「なんかゲームみたいやなぁ」
「そうですね。ゲームをイメージして頂いていいと思います。この世界を作る時にアルテール=クトハ様は地球のゲームを、参考にしていると言っておられました」
「なるほど。ならレベルとかがあってRPGみたいなやつか?」
「その通りです! テツさんは察しがよろしいですね」
「まぁそれくらいならな」
ドヤ顔をしながら答える。だいたいこういうのはRPGみたいなものと相場が決まっている。
「ではこの世界のステータスですが、実際に見ていただいた方が早いと思いますので、『ステータス』と頭の中で念じるか、声に出して言ってみて下さい」
「了解や。『ステータス』……おぉ!」
クルトに言われた通りに『ステータス』と言うと、胸の前辺りに半透明のボードの様なものが出現した。
「そちらが『ステータスボード』になります。そのボードは他の人に開示ずる事もできますが、基本的には持ち主以外見る事はできません。ではそちらに書かれている内容を見て下さい」
クルトに促されるままに『ステータスボード』を見ていく。