女神か妖精か天使か悪魔か、名状しがたい何か
「……よろしくお願いします、主様」
どう反応すれば良いか分からず戸惑っていると、もう一度言われた。
先ほどまで催ニーしているような状態だったので頭が混濁していて全くついていけそうにないが、とりあえず話し掛けられたなら返さないといけない。
「……あっ、あぁーー……」
マイクテスト、マイクテスト。
「よ、よろしく?」
「……なんでそこで疑問形なんですか。これからは常に一心同体なんですから仲良くやりましょう。むしろ仲良くやるしかありません」
言い切られてしまった。どうやら仲良くなるしか選択肢はないらしい。
ようやく寝起き状態ぐらいまで回復してきた頭で今の状況に至った経緯を思い返してみる。
なんかトラックに轢かれて宙に舞ったのは覚えている。
そこからの記憶はない。
ともすればこれは臨死体験というやつではないだろうか。人は死の狭間を彷徨うと死の世界を垣間見ることがあるらしい。
それならばこの意味不明な状況にも一応は納得出来るというものだ。
「……君、は?」
の名は、とも聞こうとしたが、この状況では相応しくない。自分の妄想かもしれない相手に正体を尋ねるのも変な話ではあるのだが。
「私ですか? 私の呼び名はいっぱいあってですね……」
「え? イッパイアッテデスネって名前なのかい?」
ーー叩かれた。
暗闇のよく分からない空間だが、なんか叩かれたような感触がした。解せぬ。
だがそれが良い。
「これが転生ものの物語だと女神様か、神様が典型なんでしょうね。てなことで、女神様かもしれませんし、なんかの精霊様かもしれません、天使かもしれませんし、悪魔かもしれません。もしかしたら貴方の命を刈り取りに来た死神かも……」
女の声はいじらしく笑う。
どうもこのイッパイアッテデスネ(仮称)はやたら良い性格をしているらしい。
こちらとしては、またある時はーーみたいな口上を聞かされても困るし、そんな冗談みたいな口調で言われても恐怖なんて湧きそうもない。
恐怖体験なら今の変な状況だけで充分過ぎる。