クリスマスの夜に
お題:真夏のクリスマス・カラフルを敷き詰めた・微笑みはまるで悪魔のように
夕ぐれの景色がゆるやかに夜へと変わるころ、町のあちこちで、煌びやかな光がともされる。店のショーウィンドウも、この時期だけはいつになく派手さが増していた。
まるで闇を打ち消すかのように、景色のあちこちでカラフルが敷き詰められている。きっと、今夜空を見上げても星の光は見えないだろう。
十二月。
一年の終わりのこの時期は、わけもなくソワソワしてしまう。
いや、今日はソワソワする理由も、ちゃんとあるんだけど。
「ごめん、圭一。待った?」
駅前の、タクシー乗り場から少し離れた道路わきで、俺は有紗を待っていた。待ち合わせの時刻は、とうに過ぎている。
別にイラついていたわけではないけれど、有紗を一瞥すると、静かに息を吐いた。
「遅い」
「だから、ごめんって」
有紗は、顔の前で両手を合わせながら俺の表情を伺う。本当に申し訳ないと思っているのかいないのか。俺は小さく肩を竦めた。
「まあ、いつものことだしな」
「ええ? そんなことないよ。いつもは、もう少し早いよ」
「時間の程度はどうあれ、遅刻には変わりないだろ」
「う……」
俺の言葉に、反論の余地をうしなった有紗は、小さく呻いた。まあ、これ以上いじめても仕方ない。俺は勝ち誇ったように微笑んだ。まるで悪魔のように。
有紗は恐縮した様に、身を縮めた。
「ほら。行くぞ」
そう言って、有紗の手をとると俺は歩き出した。
引っ張られるように有紗も歩き出す。いつもの光景。
「寒いね」
沈黙が気まずいのか、有紗がポツリとそんな事を、呟いた。
「そうか? でも今年は暖冬みたいだぞ」
「暖冬でも、寒いものは寒いよ。クリスマスだし」
「は?」
有紗の言葉に、俺は素っ頓狂な声を上げてしまった。思わず有紗の顔を見てしまう。
有紗は、不思議そうな顔をしていた。
「え? 変なこと言った?」
「いやあ。相変わらず、突然わからない単語を出すよなって思って。確かに今日はクリスマスだけど」
「うん。だから、クリスマス。夜更け過ぎに、雨が雪になる位寒くなるって、言うじゃない」
真面目な顔で、返ってきたその言葉に、俺は開いた口が塞がらない。それは、ただの歌の歌詞だろう。そう言いかけて、口をつぐんだ。
そうだ。なんだかよく分からないことでも、真に受ける事が出来る。有紗は、究極の天然だった。
「でもさ。地球の裏側は真夏だぞ」
改めて、告げた俺の言葉に、有紗はきょとんと首をかしげた。
「え。じゃあ、真夏のクリスマスだったり真夏のお正月だったりするわけ?」
「当然だ」
大きく頷く俺の表情を、有紗はまじまじ見つめた後、何か考えるように俯きながら、うーんと唸った。
そうして、再び俺に顔を向けると
「ちっとも、想像できない」
「だろうな」
まあ、想像通りの返答だった。大丈夫、ずっこけはしない。俺は、一つ息を吐くと
「……いつか、体験させてやるよ」
「え?」
ポツリと呟いた言葉は、有紗には聞こえなかったのだろう。俺はけれど、有紗の問いかけには答えなかった。
答えは直ぐに分かるだろう。
ポケットに入れた、小さなプレゼントを渡した時に。
お前は、どんな顔をするんだろうな。
答えの返って来ない俺の顔を、覗き込むように見る有紗に、俺は小さく笑った。
フリーワンライ五回目
ええと、初めて一人称に挑戦しました。
今までは、三人称……一元描写に近いものはありましたが、ほぼ三人称多元描写で書いておりまして。
新しいことに挑戦しようと思ったのです。
ちゃんと描けているのかどうか、私じゃわかりません。
でも、もっとちゃんと自然に使い分け出来る位には、頑張りたいですね。