なな
目の前は真っ暗で…。
ここは、どこだろう…?
天国かな…?
俺、死んだんだな…。
天国って…なんか、ふかふかで…あったかくて…。
布団の中みたいだな…。
なんだか、学校の授業サボって保健室のベットで寝てた時を思い出すな…。
何でだろう…?
消毒液のにおいがするからか…。
天国って…消毒液のにおいがするのか…?
それに、タバコのにおいもする…。
このタバコのにおい…どこかで嗅いだことがあるような…。
俺は、恐る恐る目を開けた…。
あれ、俺死んでるのに目を開けられるのか?
目を開けると…真っ白な天井が見える…。
俺はベットの上で寝ていて…。
ここは…どこだろう?
天国じゃないみたいだ…。
俺、生きてるのか…?
「ようやくお目覚めか、お姫様。」
この声は…!
俺のベットの横でタバコを吸いながら椅子に座っているのは、黒のスーツ姿で、7・3分けのツーブロックの大人っぽい髪型に、なかなか男前の見覚えのある顔立ちで…。
「…まっちゃん!?」
「瞬、久しぶりだな…。」
「まっちゃん…どうしてここに!?…てか、ここどこ?」
俺は、ゆっくりと上半身を起こす。
「病院だよ。お前、路上でわき腹刺されて、血を流して倒れてたんだよ。危うく出血多量死するとこだったんだぞ。」
「俺…刺されて…。それで…。」
「安心しろ。犯人は、もう捕まった。」
「そうなんだ…。でも、まっちゃんがどうしてここに?」
「お前、身寄りがないから…警察から俺に連絡がきたんだよ。」
「ごめん…。俺たちもう関係ないのに…迷惑かけて…。」
「気にするなよ。瞬、無事で良かった…。」
「まっちゃん…。」
「瞬、謝るのは俺のほうだ…。瞬、本当にすまない…!全部、俺のせいだ…。お前を無理やりアイドルにして…お前を苦しめて…。危うく、命まで脅かしちまったのも…!」
まっちゃんが椅子から降りると、土下座しようとしている…。
「やめろよ、まっちゃん!まっちゃんは、何も悪くないよ。俺、アイドルになって、たしかに辛いこともあったし…本当の俺じゃなくてアイドルの俺を、幻想の俺を狂ったように崇拝するファンが怖くて…逃げちまったけど…。でも、俺、アイドルになったこと後悔してないよ…!まっちゃんが俺をアイドルにしてくれたことで、いろんな経験ができたし、たくさんの人に出会えて…真琴と澪と友達になれて…。」
でも、iceを辞めてからは絶縁状態なんだけどな…。
「瞬…。」
「そういえば、二人は最近どう?まあ、毎日テレビで何かしらの番組やらドラマやらCMで観るけど…。」
iceは今じゃ国民的アイドルだからな…。
その時、病室のドアが開いた…!
病室に入って来たのは、黒のロングコートに帽子とグラサンとマスクで完全変装した謎の2人組…!?
「瞬―!!無事だったんだねー!!」
1人がコートを脱ぎ捨て、帽子とグラサンとマスクを取り、俺に抱き着いてきた…!
コートの下は、iceのアイドル衣装に身を包んでいて…赤っぽい茶髪の巻き髪に、健康的に焼けた肌の…。
「澪…!」
「そうだよ、澪だよ!瞬、刺されたって聞いてびっくりしたよー!」
澪は、あの頃と変わらない無邪気な瞳で俺を見つめる。
「澪、なんでアイドル衣装なんだ?」
「ライブの前に瞬のお見舞いに来たんだよ!!」
「じゃあ、もう一人は真琴か…?」
いや、違うな…。
だって、背が俺より小さい…。
真琴は、来るわけないよな…。
俺の面なんて二度と見たくないだろうし…。
「ううん、違うよ。真琴は、雑誌の撮影に行ってるんだ。」
もう1人が、俺の前に来ると、帽子とマスクとサングラスを取る…。
キラッキラッの銀色のミディアムショートヘアーに、灰色の瞳をしたこの超絶イケメンは…!
「はじめまして、瞬さん。佐倉吹雪です。」
俺がiceを抜けた後に入った新メンバーの佐倉吹雪君(20歳)!
「どうも…深雪瞬です。」
吹雪君の灰色の瞳が、俺を見つめる…。
うわあ…テレビや雑誌で何回も観てるけど、実際会ってみると…すごいな…。
イケメンオーラがハンパない…!
吹雪君て、たしかハーフなんだよな…。
だから、髪も目も本物なんだよな…。
「瞬さん…。俺…瞬さんに憧れて、アイドルになったんです!」
吹雪君がキラキラした瞳で俺を見つめる…!
「そうなの?…なんで俺?」
「ステージの上の瞬さんはキラキラ輝いていて…。すごくかっこよくて…。俺…昔、すごく辛いことがあった時に、瞬さんの歌にすごく勇気づけられたんです…。特に、3rdシングルの『僕の愛す君へ』は歌詞がまるで俺に語り掛けてくれてるみたいで…!」
iceの歌の歌詞は、俺じゃなくてプロの作詞家さんが作ったんだけど…。
「だから、俺も誰かを勇気づけられる存在に…瞬さんみたいなアイドルになりたいって思ったんです!」