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俺の目の前に現れた男の子、寒太郎は雪みたいに真っ白で柔らかそうな髪に、冬の海みたいに冷たそうな深い青色の瞳をしていて…。肌には血の気が通っていなくて、お人形みたいに白くて…可愛い顔をしている。服装は、白のセーターに白の半ズボン、首に白いマフラーを巻いていて…足は裸足。
全身、真っ白だな…。
寒太郎って、北風小僧の?
「うん。僕は北風の精霊だよ。」
精霊って…。
まあ、こんな夜中に子どもが出歩いてるはずないし…。
寒太郎、精霊でも何でもいいから、俺を助けてくれないか!?
「ごめん。僕、人間の手助けをしちゃだめなんだ…。」
えええー!?
どうしてだよ!?
「人間と話すのも本当はいけないんだよ…。今だって、お父さんに内緒で下界に降りて来たんだよ!」
寒太郎のお父さんって?
「冬将軍だよ。僕のお父さん、怒るとすごく怖いんだよ!…でも、僕、どうしても下界に降りてみたかったんだ。だから、お父さんが眠っている間に家からこっそり抜け出してきたんだ!」
へえ…。
「ねえ、お兄さん。雪●だいふくをくれたら、お兄さんのお願いを一つだけ叶えてあげるよ。」
本当に!?
「うん。」
じゃあ…。俺が死ぬまでそばにいてくれ…!
「うん。わかった。お兄さんが死ぬまでそばにいてあげる!」
おいおい!…俺、何を願ってんだよ!?
違うだろ!
救急車を呼んでくれとか、せめて誰かを呼んできてくれとか…お願いすれば良かったじゃん!
たしかに、ひとりで死にたくなかったけど…!
俺のバカ―!!
「いただきます。」
寒太郎が雪●だいふくの蓋をはがして、緑色の楊枝で白くて丸いだいふくを突き刺す。
あああ…。
俺の雪●だいふく…!!
「おいしい…!!」
雪●だいふくを一口食べた寒太郎。
血の気のなかった白い顔の頬が赤く染まる…!
冷たそうな青い瞳が輝き、小さな唇が緩み、可愛い顔が笑顔になる…。
良かったね…。
「お兄さん。これ、すごくおいしいね!」
雪●だいふく食べたことないの?
「うん。今日初めて食べた!」
そうなんだ…。
ああ、下界に降りて来たの今日が初めてなんだから当たり前か…。
じゃあ、もう一つ食べていいよ。
「いいの?」
ああ。
「ありがとう、お兄さん!」
寒太郎の嬉しそうな笑顔を見ていたら、俺まで嬉しくなってきた…。
「お礼に、もう一つだけ願い事を叶えてあげるよ!」
本当に!?
「うん!」
じゃあ…。その雪●だいふくを一口だけ食べさせてくれ…!
「うん!はい、あーんして。」
俺のバカ―!!
なんで、またどうでもいいお願いをしちまったんだー!!
いや、どうでもよくないな…!
だって寒太郎が、あんなにおいしそうに食べるから…!
俺も食べたくなっちゃったんだよー!!
「ほら、あーんして?」
寒太郎が、俺の口元に雪●だいふくを差し出す。
ダメだ…。
身体が麻痺して、口を動かせない…。
俺は、差し出された雪●だいふくに唇を触れるしかできなかった…。
「お兄さん。食べないの?」
ああ。
やっぱり、いいよ…。
ああ…ピ●にしとけば良かったかな?
ピ●なら、口の中に入れられれば食べられたかもしれないし…。
てか、ピ●なら6回は寒太郎にお願いできたよな…!!
でも…。
俺、もう助からないよな…。
血は、止まらないし…。
もう、痛みも何も感じなくなっちまったし…。
それに、俺はひとりぼっちで死ぬんじゃないから…。
俺のそばには、寒太郎がいてくれるから…。
俺は、ずっとひとりぼっちだったから…。
誰かに愛されたくて…。
誰かに必要とされたくて…。
アイドルになったんだっけ…。