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瞬と寒太郎  作者: 苺鈴
1/8

いち

 寒い…。


 俺、ここで死ぬのかな…?


 俺のわき腹から血があふれてくる…。

 

 痛いっ…なんてもんじゃない!!

 

 小学生の時、図工の時間にカッターナイフで手を切ったことはあったけど…。

 あれの痛みの何千万倍の痛さだよ…!!

 

 まさか、わき腹を刺されるなんて…!

 

 俺の瞳から涙があふれてくる…。


 痛いからだけじゃなくて…。

 こんなところで、ひとりで死にたくない…!

 いや、死ぬ場所はどこだっていいけど…ひとりぼっちで死にたくない…!!



―時をさかのぼること数分前―


 ある冬の夜。コンビニへ行った帰り道。

「あの、すみません。」

 後ろから声をかけられ、後ろを振り向くと一人の女性がいた…。誰だろう?

「はい?」

「あの、間違ってたらすみません…。『ice(アイス)』の元メンバーの深雪(みゆき)(しゅん)さんですよね…?」

「…はい。そうですけど…?」

 そう、俺は超大人気男性アイドルグループ『ice』のメンバーの深雪瞬だった…。

 だが3年前に芸能界から引退した…。今は、ただの深雪瞬(27歳)。職業、フリーターだ…。

「やっぱり!私、ずっと瞬君のファンだったんです!いえ、今でもファンです!!」

「…ありがとう。よく、俺だってわかったね…?」

 アイドル時代の俺は、専属のヘアメイクさんと衣装さんに、光り輝くアイドル『深雪瞬』に変身させてもらってたけど…。

 今の俺は、もっさりしたダサい私服に、アイドル時代のキラキラの金髪は黒髪の天パ頭になり…アイドル要素ゼロなんですが…?

 しかも、引退してから3年も経ってるし…。芸能界の移り変わりは、速いからね…。『ice』だって、俺が抜けてすぐ、新しいメンバーが入ったら、みんな俺のことなんて綺麗さっぱり忘れて新メンバーに夢中になってたし…。

「顔見たら、すぐわかりましたよ!だって、瞬…。あの頃と変わらない、綺麗な顔してるから…。」

 その女性は、俺の顔を熱を帯びた瞳で見つめる…。

 ああ…。この瞳、嫌いだな…!

 俺、この瞳で見つめられるのが嫌だから、芸能界を引退したんだよ…!!

 しかも、なんか俺の事、呼び捨てでタメ口になってるし…。

「…俺なんかのファンでいてくれてありがとう。じゃあ、俺はこれで…。」

「待って…!ねえ、瞬…。もうアイドルには、ならないの?」

「ごめん…。俺、芸能界に戻る気はないから…。俺のファンなんかもうやめて…。」

「嫌よ!…瞬。どうして?…あんなに人気だったのに!私、瞬のこと大好きだったのに…!」

 この女…うぜえな…。

「ごめんね…。」

「私、瞬のデビュー当時からずっと応援してたんだよ…!CDもグッズも全部、買ったんだよ!ライブだって、仕事休んでまで行ったんだよ…!!」

 知るかよ…。お前が全部、勝手にやったことだろ!!

「そうなんだ…。」

「瞬は、私のアイドルなんだよ…。瞬は、私のアイドルじゃなきゃダメなのよ…!」

 何言ってんだこいつ…?

「本当にごめんね!…じゃあ、俺、帰るから!」

「私のアイドルじゃない瞬なんて…瞬なんて…いらない!!」


 女は、持っていたバックから光るものを取り出し…。


 俺のわき腹に、とてつもない痛みが走る…!!


「ぐっ!…うぅ…!」


 女は、バックから取り出した出刃包丁で、俺のわき腹を刺した…!!

「瞬がいけないんだよ…。瞬がアイドルを辞めちゃったから…!」

 女は、走り去って行った…。


 俺は、その場に崩れこむ…。

 わき腹に尋常じゃない痛みが…!!

 誰か、助けを呼びたいけど…声がでない…!?

 あの女、包丁に痺れ薬でも塗ってたのか…?




―そして、初めに戻る―


 痛みを感じなくなってきた…。


 ヤバいな…。

 俺、もうすぐ死ぬんだ…。


 ああ、誰か来てくれ…!

 でも、もう夜中だし…。

 こんな人通りのない道じゃ…。


 ああ…。

 なんで、夜中にコンビニなんか行ったんだ俺!

 バイトから帰ってきて、夕飯食べながらテレビ見てるうちにコタツでうたた寝して…あったかいコタツの中にいたから、なんか急に冷たいものが食べたくなって…。

 アイス買いにコンビニ行ったんだ…!


 俺の足元にコンビ二で買った、雪●だいふくが…。

 

 せめて、死ぬ前に…雪●だいふくを食べたい…!

 

 俺は、雪●だいふくに手を伸ばそうとするが…身体が痺れて動けない…!

 

 神様、お願いです!

 死ぬ前に、せめて雪●だいふくを食べさせてください…!!

 


「おじさん、これ何?」

 俺の前に現れたのは…小学生くらいの男の子?

「ねえ、これ何?」

 その男の子は、俺の足元に落ちていた雪●だいふくを拾い上げる。

 ああ!それは、俺の雪●だいふく…!

 ダメだ…声がでない!

「これ、雪●だいふくって言うの?」

 そうだよ!

 あれ?今、俺の心の声が通じた? 

 ああ、パッケージの文字を読んだのか…。

 てか、この子。俺のことおじさんって呼んだな!俺は、まだ20代だぞ!!

「ごめん。お兄さん。」

 わかればいいんだよ!

 あれ?

 君、もしかして俺の心の声聞こえてるの?

「うん!」

 おおお!?

 君は、いったい何者なんだ!?

「僕の名前は寒太郎(かんたろう)。ねえ、お兄さん。これ食べてもいい?」

 

 


 

 

 


 


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