初の出来事(デッドマター)
「スコープ?」
「あの、狙撃銃についてる、覗きこむ部分だよ」
「あぁ…じゃあ、スコープだとして…何で私が狙われてるってなったんですか?あなたが狙われてるかも…」
そして、ケイジは説明を続ける…
「光が見えたからだよ」
「えっ?」
「スコープに跳ね返った“光が見えたから”だよ」
「?…だったら何なの?」
「狙われてるなら、スコープは俺を向いてるはずだろ?」
「…はい」
「だったら“跳ね返った光は見えない”んだよ」
「…あっ!」
その時、女の子は理解した
この事にケイジが気付けたのは、極度の銃修習者だからだろう…
「分かったでしょ?だったら素直に相手が諦めるのを待とう」
「…わかりました」
それから五分もしないうちに、狙撃手は諦めていった…
「…どうやら行ったみたいだね」
「あの…」
「ん?」
「…ありがとうございました」
「…お礼をしてもらおうかな」
「へっ?」
予想外だったらしく、女の子は目を丸くした
「君の名前を教えてよ」
「私は、伊原奈月です」
「ナツキちゃんね、俺は板野啓治だよ」
ケイジは教えてもらった代わりに、自分の名前を教える事にした
名前を聞いて、ナツキは嬉しそうな顔をした
「ケイジさんですね、分かりました!」
恐らくこの世界で出逢った最初の人間なのだろう
「タブレット」に現れたルールを見て、疑心暗鬼になっていたのかもしれなかった
其ゆえ、初めて会った人間に命を救われたと信じて疑わなかったナツキは…
本当に心から喜んでいただろう…
彼女は何も悪くない…
そう…彼女は何も悪くない…筈だったのだ…
でも…違った…
彼女は明らかなミスを侵した…
二つもの、大きなミスを…
彼女は取りこぼしたのだ…
一つ目は、禁止事項をよく確認しなかったこと…
そして、もう一つは…
「タブレット」をよく確認してなかったことだった…
…ピピッ・・・…
…イハラナツキのプログラムデータの破壊を開始…
…イハラナツキ、人生終了…
ナツキの「タブレット」の画面に、確かに《プログラムアウト》の表示が出たことに…
彼女等は気付くことすらなかったのだ…