哀しみの壁(ヒトヲツツミコムモノ)
カスミが黙ってから、十分ほど沈黙が流れた…
そして、先に声を発することになったのはケイジの方だった
「さっきはごめん…カスミちゃんは俺の知ってた人に似てた…ただ…それだけ」
一言話し終わったケイジは自身の端末を開き、三日前に新導入されたアプリを開く
…「Shot shop」を起動します…
…アプリを初期化します…
…初期化完了しました…
…「Shot shop」を起動します…
…・・・起動完了しました…
起動画面を覗き込むカスミは、顔をしかめる…
「Shot shop?」
先程見たカスミの端末には、アプリがインストールされていなかったのだ…
「さっき言ったろ、この世界では殺さないやつが罪なんだよ」
「だからどういう事なんですか!」
そしてケイジは、その問いに答えるようにアプリを操作する…
…何を買いますか?…
…《食料品》《アイテム》《火機》《弾薬》《チケット》…
「チケット?それに…食料!?」
「食料はここで買うんだ」
「そっか…あるんだ…良かった」
「いや…いいわけじゃ……ん?」
そこでケイジは、何とも知れないモノが胸を襲っていた…
まるでカスミのその時の安心した顔が…
昔を思い出させるようだった…
(なんだ…この嫌な感じは…)
その時…後ろから声が聞こえた…
「君たちもプレイヤー?♪だったら…」
その声は間違いなく、二人を地獄へと突き放すものだった…
「っ!…」
「何ですか?」
ケイジは、“奴”がしようとしてることに気付いた…
「逃げろ!!」
「ほぇ?」
キュンッ!
「えっ?…ひっ…」
カスミの足下を、一発の弾丸が掠めた…
「だったらぁ……死んで♪」
「いやぁ!!!」
カスミはパニックになり、懐から拳銃を取り出そうとした…
ケイジは咄嗟に止めようとする…が…
「止めろ!カスミ!」
「えっ?」
…遅かった…
カスミは、拳銃を相手に向けた…
その瞬間に決まった…
殺戮が始まったことが…
「ヒャッハァー!!」
“奴”は狂ったかのように、カスミに弾丸を打ち込んだ…
しかも、“奴”は機関銃を使っている…
拳銃を使っているカスミが勝てる筈無いのだ…
その場は…悲惨だった…
「あっ!がっ!」
「カスミ!」
機関銃の弾丸は、柔らかいカスミの肉体に入り込み…
そして…そのままカスミの体外へと抜けた…
「かっ…は……」
カスミの身体には、小さい無数の穴が開き…
そこからは鮮血が、散っていた…
「大丈夫か!カスミ!」
「そ…んな……私……死ぬの……?」
「ちっ…くしょおぉ!!」
「ははははっ!!♪死ねぇ!♪」
ケイジは、一週間前を思い出していた…
あの希望に満ちた顔…
あの安心感…
カスミは…虫の息になり…
目の前で横たわり…
そして今…息絶えようとしているのだ…
何故…この世界は安心を許さないのだろう?
何故…この世界の神は安心を嫌うのだろう?
何故…生きたいと思った人間だけが死ぬのだろう…?
悲しみと…そして無数の疑問だけが…
ケイジの周りを包み込んでいた…