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「おい、要、今日はこの前言ってた奴が来るからよろしくな~」
大広間に入ってくるなりこの家の主である東條蒼がソファーで新聞を読んでいる蕪木要に声を掛けた。
「は?なに、蒼さん出掛けんの?」
新聞から目を離し家の主に問いかける。
「おうおう。これから商談~。帰りは夕方かな~。」
珍しくスーツに身を包んだ蒼はネクタイを結びながら答えた。
「蒼さんの客なのに良いのか?」
「ん~?だって、これから一緒に住むんだから良くね?」
「まぁ、それもそうか。」
蒼の言葉に納得したかのように要はまた新聞へと目を向けた。
コポコポとコーヒーメーカーが音を上げ香ばしい匂いが立ち込める中広間のドアが開いた。
「ふわぁ~かなちゃん朝ごはんは~?」
大きなあくびをしながら入って来たのは工藤明彦だ。
「挨拶も無しに飯の催促をする奴になんてコーヒー一滴たりとも出さねーよ。」
「えぇ~かなっちのけちんぼ~ってうわ!蒼くん何その格好!マフィアみたい!」
ネクタイを結び終わり長い足を組んでコーヒーを啜る蒼を見た明彦の頭は完全に覚醒したらしい。
「これから商談さ~。あ、明もよろしくな~今日あいつが来るから~。」
「あれ?今日だっけ?OK、任せて!」
「明は恵菜の顔覚えてんだろ?」
「もちのろん!」
蒼がそう聞くと明彦は親指を立てながらまだ幼さの残る満面の笑みで答えた。
「かなっちは覚えてないんでしょー?恵菜ちゃんすごーくかなっちに懐いてたのに薄情者だねー!」
「うるせーよ。」
要は眉間に皺を寄せながらも新聞から目を離さず答えるとまた一枚新聞を捲った。
「まぁ、あいつの顔見ればすぐわかるよ。麻菜とそっくりだから。」