目覚め
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家に帰った史郎は、親に買ってきたお使いの品を渡すと、早々に自室に引きこもった。
もう、ここ五年ほど史郎はこんな生活を続けている。就活に失敗し、入った企業がブラックで、体を壊してからずっとこの生活だ。前職のせいで未だに不眠症と鬱症状に悩まされる史郎に、家族も腫れ物を扱うように対応してくる。
両親と兄と妹が居るが、兄は家を出て普通に生活している。妹は結婚して近くのマンションで生活していた。史郎は老いた両親との三人ぐらしで、ほそぼそと生活していた。
自室に戻った史郎は、やることがないためオンゲームをやることにした。ネットゲームも多少はやるが、基本人付き合いが苦手なのである。人間の顔を見ると緊張してしまうぐらいのコミュ障なので、チャットをするのも億劫だと思うようになってからは、ほとんどネトゲはしていない。
「さて、シム○ティー4でもやるか」
史郎は、最新版ではないが名作として名高い某都市育成シュミレーションゲームをプレイすることにした。他のゲームとしてシヴィ○イゼーションなどもあるが、史郎は戦争が不得意で何時も他の文明に淘汰されるので、早々に投げてしまった。
「やっぱ、街作りは再開発がメインだよなぁ…。クラッシュアンドビルド。これなくして都市開発の楽しみはわかられないだろうなぁ」
実際シム○ティーというゲームは、普通にプレーするだけではおもしろみが全くないゲームなのだ。
一応都市の人口という、目標があったり、ボーナスとしてもらえる建物があったりするが、普通に碁盤の目状に都市を建設すれば、誰でも簡単にクリアできてしまう。
後は何をするかといえば、災害を起こしたり怪獣を呼んだりと、ただ都市を破壊して遊ぶゲームである。
では、どうやってそこに面白さを見出すかと言えば、実際の都市を再現したり、わざと碁盤の目都市から外れた都市を計画したり、災害を発生させて、都市を復旧したりと積み木遊びの要領で、延々と遊んでいけるゲームなのであった。
しかもこのゲームは、MODを入れることによって、個人のプレイヤーが作った建物が導入できたり、新しい交通機関が導入できたりと、兎に角飽きることがなかった。
実際発売から10年近く経つ現在でも、プレイ動画が動画サイトにアップされるほどの人気を誇るゲームなのだ。
そんな訳で、深夜までシム○ティーをプレイしていた史郎だったが、新聞屋さんのバイクの音が聞こえてくる頃に成ると、ちょっと一息入れる目的で近くのコンビニにでも行こうかと思い、家の玄関から外に出たのだった。
***
「で、ここはどこだろう…」
青い空と鬱蒼とした木々からわずかに溢れる木漏れ日が眩しいと思った。周りを見渡すと、森の中にいることが分かる。鬱蒼とした、まさに森と言った場所だった。
文句の付けようがない森。そして、気持ちがいいぐらい晴れた空。
一瞬夢かと思った史郎だったが、頬にチクチクと当たる枝葉の感触で、それが夢だとは思えなかった。
てか、なんでこんなことに成ったんだ。確か、俺は今コンビニに行くために玄関から出たはず。なんでだ!?
なんでこんな事に…。
悶々と考えている史郎だったが、ふと視界の端に薄ぼんやりとした物が映った。
表現としては霧にプロジェクターで投影した画像のように半透明のゲームのアイコン。全く見慣れないアイコンだったが、視線をそのアイコンに意識した瞬間に突如目の前にパッと画面が表示された。
【チュートリアル】
『まずは家を作ってみましょう』
そんな表示だった。なんだこれは?
横のバーから下の方に続きがあるとわかるので目線で下の方を見ると、画面はスムーズにスクロールした。そこに書かれていた内容は、まさにゲームのチュートリアルそのものだった。
まず、画面に表示される説明を読みながら、手近な木に手を触れる。すると、その木をカード化するか質問されるので、指示に従いカード化する。
途端に、触れていた目の前の大きな木が一瞬にして消滅し、アイテム欄に複数の部位に別れて分別されたカードが現れ、それを何枚か選択する。
そこから、丸太のカードを指定すると、今度は目の前に3D表示の様なものが現れる。
自分の手をみるとそれも3D表示のようになっているので手を動かしてみると、どうやら画面の中の物に触れるらしい。
自分の手でつみ木のように丸太を指示通り端を他の丸太と合わせて積んでも平気なように掘込を入れ、上下の重なる部分をそぎ落としてから積み上げていく。
マッチ棒ハウスの様な四角い囲いができると、今度は床の部分に取り掛かった。
指示通り丸太カードを加工選択し、板に変換したらそれを並べてすべての板を接着する指示を出す。横一列に並べた板が、大きな板に成ったのを確認して、今度は床下を組む。そして、屋根も似たような調子で組むと、大凡建物らしい外観になって来た。
しかし、まだ重要な項目が残っている。窓や扉と言った、人間にとっては建物を作る時、およそ必要な部分がである。
ここで、チュートリアルの指示で、窓と扉の位置を指先で点くような感じで四ヶ所ずつ指定すると、指でさした点から線が真っすぐ伸びて、切断するか指示が出る。
この時、細かい数値が表示され、X,Y,Zの表示が同時に表示される。所謂座標軸の表示だ。
適当に点いたせいで、歪な四角形になっていたそれを、数値で正方形に整え、窓とドアの位置を決めてから、くり抜きを実行した。以外に細かい作業が延々と続くのでそろそろ史郎が疲れてきたと思った頃、やっとハウスが完成した。
ドアなどの細かい部品は、細部まで指示できるが、予め基本パターンが存在していたのでそれを指定して、アンティークなおしゃれな扉に成った。
因みに、建物部材は最後にリンクと言う工程行うと、建物自体を一つのアイテムとしてカード化することができる。それをやらないと、逆にすべての部位がバラバラに収納されてしまうので、ちゃんとリンクしておく。
丁度、資材として周りの木々を片っ端から回収したため、森の一角は広場のように成っていた。
そこで、今度は建物配置のチュートリアルが始まった。
まず、土地の高低差や、硬さ土質などの細かい指定項目の他にX,Y,Zの座標も表示されて、地面から一気に上空500キロメートル以上の高さまで指定して、物が置けることが判った。
ただし、大気圏外に出す場合はそれ相応の装備をしなければダメだろうことは実験をしてなんとなく分かった。
数値の最高点がどこか試すためにカード化した植物を、縦軸の最高まで数値を上げて判ったことだ。
戻ってきた植物は、大気圏外に出た影響と熱で変色していた。
とりあえず、地面をちょっとだけ周りより高くして、水はけを良くして、そこにログハウスを置いた。
因みに、整地作業をする時の座標軸は物を作るときの座標軸と違うことがチュートリアルで説明された。
まず、自分の目の前が基準位置0,0,0に成るようだ。
そこから一ミリ単位で座標を指定できるが、目で確認出来る範囲以外では作業ができないのが難点だ。
目盛の数値は経度・緯度・高さが基準となっているのだろう。
この惑星の裏側まで飛ばすことは、数値上可能だが、出現場所がどうなっているか確認できないのでは設置できないので難しい。
しかもこの地形改造効果は、直接大地と接触している物と触れるか、大地に触れるかしないと操作できない。結構厄介だ。
とりあえず、家に入ることにした。
内部に入ると、やや狭いが、なかなか味のある家になっていることに満足した。
「さて、どうしようか…」
何もわからないから、とりあえずチュートリアルにしたがって唯々諾々と指示に従いゲームの様にやってみたが、現状が全くわからない。
分かるのは、自分がゲームの様な能力を持った?事ぐらいだろう。
どうしよう、ここにはコンビニも無さそうだし、飯も無い水も無い。
おわた…。俺オワタ…。
頭のなかで\(^o^)/の顔文字がひたすら流れている自分を冷静に観察しながらパニクるという、離れ業をやりながら、そろそろ限界が来たようなので、思考を放棄することにした。
つまり、気絶したのである。
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