雀(すずめ)-Ⅰ-
〇
この業界に入って学んだこと三つ。
その一。
“殺し屋”は実在する。
その二。
“殺し屋”はうじゃうじゃ存在する。
その三。
“殺し屋”は世界一割りに合わない職業だ。
俺は雀。
世界一割りに合わない職業の新米。
“殺し屋”のルーキーだ。
〇
“殺し屋”とはその名称通り、対象者の“殺し”を商売とする職業のこと。
小説や漫画などフィクションではもはや御馴染みのキャラクターであり、作家の立場からすれば、なかなか動かしやすいポジションのキャラの一つであろう。
法を軽々と超越しつつも狂った殺人鬼とは一線を画す彼らは、物語の流れを容易に発展、加速させる。
“ダークヒーロー”の名もさらりと着こなす、フィクション界の名役者。
が、それはあくまであっちの世界の話。
サンタクロースを信じる大人がいないように、この世に“殺し屋”は存在しない。
何故か。
それはもちろん、“殺し”とは最も人道にそむいた行為であり、大犯罪であるからだ。
そこまでの危険を冒すことを常として金を稼ごうとするバカはいない。世の中、他にいくらでも生きる道はある。
そう。他にいくらでもあった。
しかしどうして人生とは摩訶不思議。俺は社会の荒波にもみくちゃにされ、きがつくとその“幻の職業”であり“バカ”になっていた。
俺が殺し屋に至るまでの説明はひとまず省いて。
今は現状について説明させていただこう。
ざっくり言ってしまうと、目の前には死体がある。殺ったのは俺じゃない。
そして、徐々に近づいてくるのはパトカーの電子音。ピーポーピーポー。
つまりは濡れ衣。絶体絶命。
そういうことだ。