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転生研究者の異世界魔法論 ――魔法を科学したら最強になった件――  作者: 夜透


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炎を形に

第40話を読んでいただき、ありがとうございます。

今回から、アルの新たな魔法鍛錬が少しずつ形になっていきます。

「魔法を使う」のではなく、自分が思い描いた現象を魔力によって具現化する。

その感覚を掴み始めたアルですが、当然ながら思い通りにはいきません。

研究者としてのアルが、魔法という未知の現象とどう向き合っていくのか。

その最初の一歩を楽しんでいただければ嬉しいです。

 朝の訓練場に、静かな風が吹いていた。

 昨日と同じ場所。

 だが、アルにとっては、昨日までとはまったく違って見えていた。

 目の前にはエルシア。

 少し離れた場所にはフェンリルが立っている。

「昨日は、炎そのものを想像してもらったね」

「うん」

 エルシアの言葉に、アルは頷く。

「今日は、そこから一歩進めてみよう」

「一歩?」

「そう」

 エルシアはアルの正面に立つ。

「昨日、君は炎をイメージした」

「赤い色、揺らめき、熱、燃える音……」

「でも、それだけじゃないよね?」

 アルは少し考える。

「……形?」

「そう」

 エルシアが笑う。

「炎には決まった形がない」

「だからこそ、イメージ次第でいろんな形にできる」

 アルは目を輝かせた。

「炎を……好きな形に?」

「できるかもしれない」

「ただし」

 エルシアは人差し指を立てる。

「形だけを考えないで」

「炎そのものを忘れないこと」

 アルは首を傾げる。

「どういうこと?」

「例えば、剣の形をした炎を作ったとして」

「それは炎の剣なのか、それとも剣の形をした炎なのか」

「……」

 アルは黙り込んだ。

 言われてみれば、その違いは大きい。

 形だけなら、炎を棒状に固めればいい。

 しかし、それでは自分が知っている「炎」とは違う。

「形と……性質」

「うん」

「両方をイメージする」

「それが今日の課題」

 アルは小さく頷いた。

「分かった」

 右手を前へ伸ばす。

 昨日と同じように魔力を集める。

 だが、今回は炎をただ生み出そうとはしない。

 まず頭の中に炎を思い浮かべる。

 赤く揺らめく炎。

 高い熱。

 燃焼によって生まれる光。

 そして、その炎を小さくまとめる。

 細く。

 鋭く。

 前方へ飛ばす。

(炎の弾丸……)

 魔力が集まる。

 掌の前で炎が揺らめいた。

 しかし――。

 ボッ。

 炎は一瞬だけ膨らみ、消えた。

「……失敗」

 アルが呟く。

 エルシアは首を横に振った。

「失敗じゃないよ」

「でも、何も出なかった」

「出なかったんじゃない」

「形を維持できなかった」

 アルは炎が消えた場所を見る。

「形を維持するためのイメージが足りない?」

「それもある」

 エルシアは頷いた。

「君は『炎の弾丸』を想像した」

「でも、その弾丸がどんな大きさで、どんな速さで、どんな状態なのかまでは考えていなかった」

「……」

 アルの目が細くなる。

「つまり」

「イメージが曖昧だと、魔法も曖昧になる」

「そういうこと」

 アルはしばらく考えた。

 研究者として、妙に納得できる話だった。

(条件が足りないんだ)

 炎の弾丸。

 その言葉だけでは情報が少なすぎる。

 大きさは?

 温度は?

 速度は?

 燃焼状態は?

 飛んでいる間に形は変わらないのか?

 何より――。

(何を目的にする?)

 アルは顔を上げた。

「もう一度やっていい?」

「もちろん」

 アルは再び右手を前へ向ける。

 今度は、ただ炎の弾丸を想像するのではない。

 小さな炎。

 人差し指一本分くらい。

 できるだけ高温。

 空気抵抗を受けても形を崩さない。

 前方へ一直線に飛ぶ。

 触れた瞬間に熱を一気に叩き込む。

(これで……)

 魔力を流す。

 ボッ。

 今度は掌の前に、小さな炎が生まれた。

 先ほどとは違う。

 細長い楕円形。

 赤い炎の中心には、青白い光が混じっている。

「……!」

 アルの目が見開かれる。

「できた……?」

「まだ」

 エルシアが即座に答えた。

「え?」

「飛ばしてみて」

 アルは頷いた。

「いけっ!」

 炎の塊が前方へ飛ぶ。

 一直線に進み――。

 訓練場の先に置かれていた木製の標的へ命中した。

 ドンッ!

 炎が弾ける。

 標的の表面が黒く焦げた。

「やった!」

 アルが拳を握る。

 エルシアも嬉しそうに笑った。

「うん」

「今のはかなり良かったよ」

 アルは標的を見つめる。

「……でも」

「うん?」

「思ったより遅かった」

 エルシアが目を細める。

「気づいた?」

「うん」

「頭の中では、もっと速く飛ぶと思ってた」

 アルは自分の手を見る。

「形も少し違う」

「もっと細くしたかった」

「それに、当たった時の炎の広がり方も……」

 アルの言葉が止まらない。

 エルシアは楽しそうに聞いている。

「だから言ったでしょう?」

「魔法は、イメージと現実のすり合わせが大切なの」

「……なるほど」

 アルは頷く。

 これは、研究と同じだった。

 理論上は正しい。

 だが、実際にやってみれば予想通りにはいかない。

 ならば原因を探す。

 条件を変える。

 もう一度試す。

 結果を記録する。

 そして、また考える。

「面白い……」

 アルが小さく笑う。

「やっぱり研究と同じだ」

「そう?」

「うん」

「思った通りにならないから、もっと知りたくなる」

 エルシアは少し驚いたようにアルを見る。

 そして、柔らかく笑った。

「それなら、君には魔法の鍛錬が向いているかもしれないね」

 その言葉を聞いて、アルはさらに笑った。

「もっとやってみたい」

「もちろん」

 エルシアは頷く。

「次は、同じ炎でも形を変えてみよう」

「弾丸だけじゃない」

「槍にしてみる?」

「槍……」

 アルの瞳が輝いた。

 その様子を少し離れた場所から見ていたフェンリルが、静かに目を細める。

 昨日までのアルは、魔法を理解しようとしていた。

 今日のアルは、理解したものを自分の中で組み替え始めている。

 まだ完成には遠い。

 だが――。

 確実に、一歩前へ進んでいた。



今回は、アルが初めて「イメージしたものを魔法として形にする」という感覚を掴み始めました。

ただ、頭の中で思い描いたものと、実際に生み出される魔法にはまだズレがあります。

「理論上は正しい。でも、実際にやってみると違う」

この感覚は、研究者としてのアルにとっても非常に馴染み深いものです。

ここから少しずつ試行錯誤を重ねながら、アル自身の魔法がどのように形作られていくのかを書いていきたいと思います。

次回もよろしくお願いいたします。

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