幕間 勇者、捕捉される
「……………………」
ある部屋の一室、戦士、治癒者、魔法使いは集まっていた。
「……どう、思いますか?」
「…………………………………」
「…………………………………」
勇者が居なくなった日、万が一、億が一の可能性を考えた三人は、不審者が居なかったかを尋ねた。
まさか、勇者が攫われるだなんてあり得ないが、念には念を入れた三人の聞き込みは、予想外の方向に向かった。
巡回していた騎士は語る。
『不審者……ああ、そう言えば、背の小さい……これくらいの、髪が真っ白な男がいました、偽物の聖剣を持ってて……え、いやいや、勇者様なわけないですよ、勇者様はもっと威圧感みたいなのがあるじゃないですか、間違えないですよ』
門番は語る。
『ああ、なんか夜に出入りした、真っ白な髪の男いましたね。物腰柔らかで、旅に出るとか言ってましたよ。荷物も次の街までの旅用品が几帳面に入ってて……あ、あと、聖剣を模した剣を持ってましたね……勇者様とは似ても似つきませんよ、勇者様はもっと背が高くて、見た瞬間背筋が伸びるような感じがありますから、髪を白く染めた勇者様なんて、絶対ないですよ』
ある酒場の主人は語る。
『きたきた、腹話術者の兄ちゃんだろ?髪をあんな真っ白に染めてるやつ中々の居ないからよく覚えてるよ……腹話術って、ほら、人形とか使って、一人二役で話すアレだよアレ、ただあの兄ちゃんは聖剣を使ってよ、勿論偽物だぜ、そんで、勇者様と聖剣の会話劇みたいにしてたんだ、考えたモンだよな…………え、他に何か話してたかって?ああ……確か、それこそ、勇者様についてよく聞いてたな、どんなヤツだったか、みたいな、へへっ、あの兄ちゃん、勇者様に会ったことねぇんだとよ、一目見れば、あんなオーラある人居ないから分かるって言ったぜ』
ある少女は語る。
『まっ白なかみのお兄ちゃん?うん!いたよ!ひまだったからあそんでっていったら、あそんでくれたの!ほかのみんなも、だれも知らないあそびいっぱい知ってたんだよ!あしがすっごくおそくて、ずっとまけっぱなしだったの!……じつはね、あのお兄ちゃん、ゆうしゃさまなんだよ、けんとおはなししてたの、ふくわじゅつ?とかいってたけど、ぜったいうそ、だってお兄ちゃんくすぐっても、けんがはなしてたもん!くちどめりょう?として、みんなにおかしをかってくれたんだ!あーあ、またこないかなー』
「……それで、どう、思いますか?」
治癒者は再び、二人に尋ねた。
勇者は確かに威圧感がある。治癒者は仲間になって三ヶ月ほど経ってから、やっと勇者は自分より背が低いと気づいたほどに。
「……身長は、アイツとおんなじぐらいだな」
戦士は自分の胸元辺り……聞き出した身長を記憶の勇者のソレと比較する。それに、髪が真っ白というのも戦士には引っかかっていた。
もしかして、神からもらった勇者の力、全部失ったんじゃねぇか?
「多分、勇者、だね」
魔法使いは、半ば確信していた。勇者は割と嘘が巧い。その状況に合ったもので、どうにか取り繕う能力が長けていた。
「髪が白くなっていた、ということですが……」
「ああ、もしかすると、力が全く無くなったのかもな」
戦士は言った。『実は勇者のヤツ、元々弱いんだぜ』とは言わなかった。何で言わなかったのかは戦士自身不明である。
しかし、それなら、なぜオレを頼らない? どうしてオレに助けを求めない?
戦士の疑問はそこだった。
勇者が力を失った可能性から、治癒者も同様に思考する。
なぜ、僕に仰ってくれなかったのでしょうか? 勇者様には何か考えがあるのか、それとも……
流れる沈黙、二人がその不可解な理由を埋める丁度いいピースを探している間、魔法使いは小さく独り言を言った。
「膝から下、要らない、よね」
魔法使いは、勇者を見つけ次第、ひとまず逃げ出さないように、脚を取っておこうと考えていた。
恋だの愛だのがあろうと、魔法使いの根底は大して変わってはいない。
「………………」
「………………」
二人は、なるほどとピースを見つけた。
つまり、アレだな、この二人に力を失ったことがバレたらヤバいからか。
つまり、そうですね、この二人に力が無くなったと知られては、殺されてしまう危険があるからですね。
戦士と治癒者は、まさか自分もその中に含まれている、なんて発想はしない。ピースの三分の一は欠けているが、それは確かに正解だった。
「……薄情、酷い」
ぼそと追加した魔法使いの恨み言は、戦士と治癒者にとって珍しいものだった。
確かにと、戦士は思い出す。
『何でって、サボってないかの確認だよ、一応、念の為ね、ははは』
兵士たちに挨拶したり手伝ったりと、勇者はよく動いていたが、それは念の為の確認だと言っていた。
あっ、コイツ、兵士を毛ほども信頼してねぇなと、戦士は若干引いた。
確かにと、治癒者は思い出す。
『一応な、一応だから、魔法使い、頼む、治癒者に洗脳とか、そういうのかかってないか確かめてくれ』
教会の中央から帰ると、いつも勇者は治癒者に何かしら思考誘導などがかかっていないかを確かめた。
一度だけかけられていて、治癒者は勇者の危機管理に感服していたが、思い返すと過敏だったような気もした。
魔法使いは、かつて勇者と雑貨屋で『お楽しみ袋』なる、割と安くない買い物をしたことを思い出していた。
『買うのか……本当に買うのか……言っちゃ悪いが、だいたいこういうのに値段相応のモノは入ってないぞ、石でも詰められてるんじゃないか、買う?買うか……分かった、そうだな、楽しみだもんな、うう、買うか…………』
勇者は小声でかなり渋っていたが、魔法使いには中身が分からない買い物というのが物珍しく、互いの金を出し合い購入した。
重いそれなりのサイズの袋に入っていたのは、服や小物や櫛などで、値段以上のモノのように見えた。
勇者は愕然として、お値段以上……だと?と何か震えていた。
「……まぁ、別に、力のねー勇者にオレは興味ねぇし、そういう事ならどうでもいいか」
「力を……色を無くしてしまったのであれば、勇者様であり続けることは難しいかもしれませんね、仕方ありません」
「そう、なら、私も、いい」
じゃあ、オレはちょっと用事あるからと、戦士は部屋を出て行った。
僕も少し、教会に用がありますからと、治癒者も部屋を後にした。
「…………早い者、勝ち」
ぽつと魔法使いは言って、勇者が乗った馬車の先、王都から近い街の方向を調べ始めた。
戦士は走った方が速いと既に駆け出し、治癒者はその街の教会へ連絡する。
どうも他二人は勇者に興味が無いらしい。なら、今のうちに自分のモノにしてしまえ。
三人が思っていることは、ニュアンスが違えど、だいたいこんなことだった。




