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最強勇者、最弱になったので逃亡する  作者: 心我 湧立


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11/11

勇者、二人部屋なのにベット一つしかない宿屋に泊まる

「いや、だから、部屋を二つ」


「申し訳ございませんお客様、只今空いている部屋は一つのみとなっております」


「本当に?本当にですか?」


「はい、ですので、どうぞお二人でご利用ください」


「……ベッドは二つ?」


「一つですが、お二人で広々とご利用出来ます」


「ゆー、部屋、行こ」


「ま、待て、ちょっと冷静になろう、な? 何なら俺は別の宿を探すから、それが良い、そうしよう」


「…………」


「……お客様、男でしょう? あまり恥をかかせてはいけませんよ」


「男だからなんだってんだ!なら俺は女で構わんわ!女ならいいんだな!!じゃあ女になる!」


「……性別、変える、魔法、あるよ」


「…………男のままがいいです」


「よかっ、た、行こ」


 ごゆっくりー、と言う桃色髪の宿屋従業員を恨みがましい目で見ながら、魔法使いに引きずられるよう、部屋へ連れて行かれる。


 最初こそ仲裁に入ってくれそうだった彼は、魔法使いの髪色と目を見て、即座に身の振り方を変えた。個人単位では弱肉強食、異世界って、無情だ。


 部屋は、かなり立派だ。勇者の脳裏に浮かぶのはラとブとホが組み合わさったような単語。魔法使いが身体を洗いに隅の個室に行って、勇者は床でのたうち回る。



「する……のか?」


 勇者はクソ雑魚童貞だった。


 十八歳で異世界に来て、現在二十三歳。ポリシーは、自分の手に余ることには手を出さない。


 危機(ピンチ)好機(チャンス)に変えるんだと、心の中の男の子が叫んでいる。この機に()()してしまえと叫ぶ本能に、理性はビンタをかます。


「痛った……」


 物理的にも自らにビンタをかまし、のたうち回る勇者は、一旦冷静になることにした。


「…………出来るのか?」


 するしないは置いておいて、出来る出来ないを思考する。魔王退治で一周遅れた思春期エンジンがフル稼働。


「…………………………」


 勇者の身長は百七十センチ丁度、異世界で言えば、男にしては小柄で、女なら一般的くらいの扱い。


 ならば、そんな勇者から見て小柄な魔法使いはと言えば、百六十センチは確実に無い身長で、その肉づきは悲しくなるほどに薄っぺらだ。


「…………」


 勇者はどちらかと言えばバインバインな方が好みだった。出来れば自分と同じくらいかそれより若干低いくらいの身長の人がいいなと思っていた。


 ……もし出来なかったら、死ぬのでは?


「…………窓から飛び降りた方がいいかな?」


 勇者は思った、二人傷ついて一人が死ぬか、ただ一人が死ぬか、後者の方がマシなんじゃなかろうか。


「ゆー、入っ、て」


 魔法使いが寝巻き姿で出てきて、入れ替わるように個室に入る。魔法使いが貯めておいてくれた温水を使って、石鹸を使って身体を洗い、拭く。


 だいたい、なんでこんなコトになるんだ、俺は勇者だぞ、魔王を滅ぼした勇者様だぞ、もっとこう、超然的な立場のままいさせてくれよ……


 身体を洗い終わり、寝巻きを着て、個室を出る。思い出話に花を咲かせて、何とか魔法使いを先に眠らせよう、後は床で寝るだけだ、と勇者は作戦を決めた。


「お湯、ありがとうな」


「ん、じゃあ、来て」


 魔法使いは既にベッドの中、手招きするその動きに、勇者はぎくしゃくと動く。心なしか艶めいて見える魔法使いに、勇者は何だか猛烈に死にたくなっていた。


 ベッドに座った勇者、その手を引っ張り、中へと連れ込む魔法使い。


「こっち、見て」


 ぐい、と身体を回転させられ、広いベッドの上で顔を、身体を、向かい合わせ。


「……じゃあ」


 魔法使いは、勇者を抱きしめた。


 勇者は、魔法使いから前に買った石鹸の匂いがするなぁ、と高速回転する頭は焼けついたエンジン同様に使い物にならなくなっていた。





「おや、すみ」


「……………………はい?」


「……おや、すみ」


「……おやすみ」


「子ども、出来る、かな」


「…………どうかな」


 魔法使いは満足したように、抱きついたまま目を瞑った。


「えっと、そういえば…………………今、何歳だっけ?」


「……三十、か、三十一」


「そうか……そうか…………」


 魔法使いは目を瞑り、すやすやと眠り始めた。


 勇者は魔法使いの経歴を思い出す。産まれて十年で一人前に、それから十五年間一人で魔物をぶっ殺し、五年かけて俺達と魔王を倒した。


 つまり、魔法使いには……一般的な性知識が、皆無。


 そう言えば、魔法使いと見たあの恋愛モノでも、同じベッドで寝よう的なアレで濁されてたっけ……


 勇者は安堵と虚しさが三対七の割合で混ざり合った感情の中、ぼんやりと思考する。


 いや、良かった、これで良かったはずだ。考えうる中で最高の誤算だった。なのに……なんだろう、この、空回り感…………


 勇者は溜め息を噛み潰す。よかった、よかった、そうだ、変に知識があったら今ごろパーリナイだったんだ、セーフセーフ…………それと、魔法使いには性教育が早急に必要だ……


 脳裏に治癒者と戦士が浮かぶ。流石に戦士のがいいか、正しい性知識はやっぱり必要だよ、全く。


 …………いやいや、何で俺は、三十路の性教育について考えてるんだ!しかもその相手と同衾状態!


 でも、だって、仕方ないだろ? と勇者の脳内で口論スタート。


 いつか、誰かが訂正しない限り、魔法使い(マホウツカイ)はずっと恋人との最上級が同衾だと思って終わるぞ!同じベッドで寝たら子どもがどっかから発生すると思い込んでるぞ!!


 勇者の言い分に、勇者はタジタジだ。しかし、こちらにはこちらの言い分もある。


 だが、もし仮に魔法使いがあれやこれやを知っていたら、止まると思うか?それの相手をするのは絶賛玩具(オモチャ)な俺だぞ!?夜まで玩具になる気か!?


 勇者の言い分に、勇者はぐぬぬと言い返せない。


 そんな脳内会議をして、いつの間にか、勇者は眠っていた。

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