ショートショートー私の話を聞いていただけますか?
皆さん、突然ですが私の話を聞いていただけますか?
自分で言うのもなんですが、私ほど不幸な人間はいないのではないでしょうか。
毎日毎日、まったく話の合わない連中と何時間も過ごさなければならないのです。
私ならもっとレベルの高いトコロに行けたはずですが、両親に押し切られてしまいました。
何が不幸かって、私の周囲の連中ときたら、自分のことしか考えていません。
相手の立場に立つ、なんて概念はまるでない。
これから、いかに彼らが未熟で社会的な概念に乏しいか、ある二人を例にとってお話ししましょう。
おっと、その前に少し自慢をさせてください。
私の名前はトモキ、男です。
いや、そんなことよりも――えへん、私はIQ200の頭脳の持ち主なのです。
IQ200がどれほどすごいかと申しますと……
IQの平均値は100、標準偏差は15。
つまりIQ115が上位約16%、IQ130が上位約2%(いわゆる“ギフテッド”の下限)です。
歴史上の天才たちを例に挙げさせていただきます。
・アインシュタイン 約160 理論物理学の巨人
・ニュートン 約190 古典力学の基礎を確立
・レオナルド・ダ・ヴィンチ 約180 万能の天才
・テレンス・タオ(現代数学者) 約225(推定) 最年少フィールズ賞受賞者
・マリリン・ヴォス・サヴァント(IQテスト記録保持者) 228 ギネス認定(スタンフォード=ビネ法)
とまぁ、私はこれら天才たちに引けを取らない、優秀かつ希少な頭脳の持ち主なのです。
おっと、自慢話はこれくらいにして、二人の人物の話に戻りましょう。
No.1(仮名:タロウ、男)
タロウは、情動優先型の行動特性をもつ典型的なタイプです。
論理的整合性よりも、その瞬間の感情を優先します。
状況を俯瞰する能力が著しく低く、自己中心的判断を繰り返す。
たとえば、ちょっとした順番の変更に過剰反応を示します。
全体効率のために自分の優先度が下げられたりすると、非合理的な抗議行動――声を荒げたり、物理的抗議に訴えたり――を起こすのです。
なんと大人げない、子どもじみた行動でしょうか。
その後、なぜそうしたのかを問うと、本人も説明できません。
行為の動機と結果の連関を理解する思考構造が欠落しているのです。
集団行動の基本原則の第一は秩序の安定であります。
長期的に見れば、全体効率の向上が結局構成員の利益として還元され、皆が幸せになる――という日本古来から脈々と続く美しい原理原則が分かっていないのです。
いや、分かってはいるが、受け入れないのかもしれません。
西洋化の悪しき側面かもしれませんな。
まったく、何が「○○ファースト」ですか!
そんなことを曰っている時点で、全体の中の己の位置を相対的に認識している証拠ではないですか。
心底己のことしか考えていないなら、わざわざ“ファースト”などと言わぬはずです。
集団に属する利益を享受しておきながら、自分を優先させないと気が済まない――まったくもって未熟と愚かの極みですな。
勿論、私は何度か助言を与えましたよ。
「感情の衝動に支配されず、まず原因を分析しよう」と。
しかし彼の反応は決まって同じです。
沈黙、そして数秒後に別の話題――つまり、議論を放棄するのです。
知性への敬意が存在しない。これは深刻な問題です。
つまり、お話にならない、ということです。
ああ、こんな人間が近くにいるなんて……本当に、私は不幸な人間です。
No.2(仮名:ミカ、女)
ミカは、タロウとは異なる意味で社会的に未成熟です。
彼女は対人操作型に分類されるでしょう。
自分に有利な状況を作るために、感情や言葉を巧妙に使い分けます。
印象操作の技術は高く、周囲の権力構造――たとえば管理者層――を敏感に察知します。
注意を引くために不必要な発言をし、他者の成果をさりげなく自分の手柄に変換する。
その手際は見事で、ある種の才能すら感じます。
たとえば、誰かが成功を収めると、彼女はその過程に自分が関わっていたかのように語り、
聴衆の同情と好意を同時に獲得します。
論理ではなく、印象による支配。――人類史における政治の原型です。
とはいえ、彼女に悪意があるわけではありません。
自分の存在を確かめたいという原始的衝動が、まだ倫理的な抑制よりも優先されているだけなのです。
私はその点で、彼女をある種の“社会化の途中経過”と捉えています。
確かに恵まれた容姿を持っているので、大概の男はイチコロでやられてしまいますな。
ミカはそのことを自分でも分かっている。
つまり自分の立ち位置を客観的に評価できているので、付かず離れず――ツンデレというか、とにかく相手との距離感の取り方が秀逸なのです。
知性というか、本能ですな、これは。
え? 私はどうかって?
そりゃ、私も男ですから、たまには彼女にふら〜っとすることがないとは言いません。
ですが、IQ200の頭脳の持ち主ですぞ。そこは十分に理性で対応しております。えっへん!
では、結論と私見を。
以上の観察から明らかなのは、
この集団における思考水準の平均値が著しく低いという事実です。
私は彼らの言動を通じて、知性というものがいかに孤立を生むかを日々痛感しています。
人は理解できないものを恐れ、
理解しようとせずに「変わり者」として分類する。
この構造が、いずれの社会層にも普遍的であることを、
私はすでに三ヶ月の滞在で確信しました。
改革は必要です。
しかし、誰が私の言葉を理解できるでしょう。
この環境においては、私の論理は常に“異物”として扱われるのです。
こんな環境に居続けたら、さすがのIQ200の頭脳もブラッシュアップできません。
あぁ〜、私はなんて不幸なのでしょう。
かと言って、理性的な人間として集団の秩序を乱すわけにもいきません。
そこがツライ所なのであります。
「トモキくーん!」
はぁ〜、私の名前を気安く呼ぶ女がいる。
あれは……アケミです。
アケミという女はですな、50代の…
「おやつの時間ですよー。今日はトモキ君の好きなチョコレートクッキーだよー。お手てを洗いましょうねー。食べたらお昼寝ですよー」
「はーい、園長センセイ!」




