005-伝わらない思い
僕は、街を歩いていた。
自分に視線が集まるが、大体はすぐに逸らされてしまう。
僕は今、アディブ人だから、興味を引く対象なんだと思い知らされる。
「..........っと、やることをやらなきゃ」
今朝、僕はレイシェさんから封筒を受け取った。
その封筒は、僕の死亡届と役所への説明が入っている。
バイト先と親戚に迷惑を掛けたくないので、昨日頼んでおいたのだ。
「ここは......遥か台だから、緑木原まで行かないと」
財布も無くしたので、人間のお金も工面してもらった。
お財布はないのかと聞いたけど、そう言ったらレイシェさんが、懐に隙間があってモノが入ることを教えてくれた。
僕は地下鉄に降りる。
歩幅が今までと違うので、階段を降りるのも一苦労だ。
「........」
僕が角を曲がっただけで、僕を視界に移している人たちが一瞬ぎょっとした顔になる。
何もしないから、あんまり見ないでほしい....
「緑木原までは190円と....」
僕は切符を買う。
定期券を失ったのは痛かった.....
「あれ?」
何とか三本指でディスプレイを押そうとするが、反応しない。
「もしかして......ボクじゃ無理?」
体温に反応するはずなのに、ディスプレイが反応しない。
続けて何度も押すが、反応しなかった。
「.......む~」
僕が唸っていると、隣から雑音が聞こえた。
横目で見ると、駅員さんがいた。
「?」
「――――――?」
「あー....ボタンが押せなくて」
「――――」
ボタンが押せないことを伝えようとするけれど、コンビニ店員の時と同じように言葉が全然通じない。
問答をしているうちに、駅員さんは代わりにボタンを押してくれた。
そして、メモ帳に何か書いて、僕に渡してきた。
「.......これは」
買えないなら次からこのメモを渡せばいいと書いてあり、下に「切符を買いたいのですがボタンが押せません」と書いてある。。
駅員さんが気を利かせてくれたのだ。
「.....ありがとうございます」
僕は何とか覚えている仕草、頭を下げることで感謝を表したのだった。
緑木原に帰ってきた。
僕の生まれて、育った街だけど......今は違う。
道行く知り合いに挨拶をしても、きっと気付いてもらえないだろう。
「..........」
「――――――!」
「――――」
子供が僕を指さし、何か言っている。
何を言っているか気になるけれど、それすら今の僕にはわからなかった。
「市役所はどこだったかな....」
僕は街中を歩く。
何だから全裸で歩いているようで違和感があるけれど、そもそもアディブ人は衣服を着ない。
何でも素の再生能力が優れていて、肌も寒さや暑さに強いらしい。
「確かに、聞けば聞くほど.....元に戻りたくない人の気持ちがわかる」
でも僕は、アディブ人として生きるつもりはない。
そもそも、こんなに突然アディブ人にされて、それで”スゴイでしょ!”って言われても、
僕にはその良さが全く分からない。
「.........でも、戻れないなら」
その時は......
「........」
僕は答えを出せないまま、歩み続けるのだった。
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