046-真実
真夜中に、僕は目が覚めた。
アディブ人は眠らないが、僕は習慣で眠っている。
ジガスさんとロームさんは深夜の巡回に出ているようだ。
「...」
僕は何となく居間に降りる。
そして、保管庫を開けてジュースを取り出し、少しだけ飲むそうして振り返ると、
「うわっ!?」
「もうお腹が減ったの?」
レイシェさんが立っていた。
今起きたというふうじゃなくて、僕がいる前から居たようだ。
僕は尻尾を持ち上げてジュースのペットボトルを載せ、レイシェさんと向き合う。
「いえ、ちょっと喉が渇いて」
「そう...ニンゲンがよく言う言葉ね、特に今の時期は」
どうせ二度寝はできない。
昼寝に乗じているだけだから、僕はレイシェさんと話をする事にした。
勿論、今後の事だ。
「これから、僕はどうすればいいですか?」
「あら、何をしたっていいし、何もしなくてもいいわよ」
「追い出したりはしないんですね...」
「ええ。アディブ人の社会はそういうものよ、皆が好きなことをする、それで死ぬわけでもないわけだから」
「じゃあ、どうして人間を守るんですか?」
「.........そうね」
レイシェさんは一瞬言葉に詰まった。
そして、誤魔化すように僕にクジェレンを送ってきた。
送られてきたリンクを開くと、求職サイトのようなものが開いた。
「あなたは正式な市民権を持っていないアディブ人だから、フリーランスでの仕事が主になるわ」
「......面白そうな仕事が多いですね...あっ」
「何かしら」
「イナクシスからの依頼もあるんですね」
「ああ...まあ、それにはライセンスが必要よ」
残念だけど、少し考えて僕には無理なのは目に見えていると理解する。
先日のアディブ人が平均なら、僕には不可能だし、最初に戦ったアディブ人にすら僕は苦戦した...どころか、助けに入ってもらわなければカスミを危険に晒すところだった。
やっぱり、御用聞きのような仕事を続けた方がいい気がしてきた。
「あ」
「どう? 何か見つかったの?」
ページをスクロールしていた僕の手が止まった。
そこには、マルセア肉の屠殺・加工工場でのアルバイトがあった。
直接機械を操作するわけではなく、その監視と保守が主な仕事内容だそうだ。
「マルセア肉の屠殺・加工工場が良いです」
「...意味を分かって言ってるのかしら」
一瞬の沈黙の後、レイシェさんは刺すような視線を僕に向ける。
ぞくりと背筋が寒くなるような感覚を、僕は覚えた。
「...い、意味っていうのは?」
「あなたがそれを行う意味よ」
わからない。
何が問題だって言うんだろう。
僕は首を横に振り、レイシェさんはため息をつく。
「いいわ、いつかは知れる事...今教える事にするわ」
「?」
「あなたは、マルセア肉、キレムという単語を何度も耳にしてきたわね?」
当然だ。
だって、それはアディブ人の大好きな肉で、僕もおいしくて何度も食べたものだ。
昨日食べたステーキの味が、脳裏に過ぎる。
「マルセアは人という意味よ」
「は?」
その言葉を聞いた瞬間、ステーキの味の記憶が何百倍にも引き延ばされ、僕の中で空白にも近いほどに希釈され、どこかへ消えていく。
「キレムは人肉を意味する言葉よ」
「...」
「あなたには言わないでおこうと思ったけれど、アディブ人の社会に踏み出すなら必要な事ね」
その先を言わないで。
そう懇願したかったけれど、舌が動かない。
声が出ない。
「私達アディブは、地球の固有種人間を口にする。あなたはずっと、人間の肉を食べていたのよ」
第一章・完
つづく
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