044-決意の変異
朧げな光の中、僕は森の中に立っていた。
木々をかき分け、より強い光の中に歩いていくと、そこには彼女と......僕がいた。
「栗原くん、お願いね」
「はい」
これは.....多分中学の時だ。
副学級委員長を任命されて、僕はそれを了承した。
出会った時はどんな感じだったかな、そう思った瞬間、景色が変わる。
「初めまして、皆さん」
「仲良くするんだよ」
小学四年生の時、赤宮県から引っ越してきた時の光景だ。
カスミが儚く笑う様子を見て、僕は言い知れない気持ちになった。
そこから二年後、卒業式で僕はカスミに好きだって言おうとした。
だけど、僕には勇気がなかった。
ただ、勇気がなかった。
「......」
色々な人の中心で、笑顔を振り撒く彼女を、僕は門の陰から見送った。
もう会えないと思っていたのに、中学でまた会えた。
どうしてだろうか?
「栗原くん」
「え、ええ...はい」
「私...生徒会長になるから」
誰もいなくなった教室で、カスミは僕にそう言った。
思えばどういう意味だったんだろう?
数多くのクラスメイトたちの群像に紛れて、僕はその光景をいまの今まで忘れていた。
わからない。
わからないからこそ...
「考えるんだ...!」
僕は現実から背けていた眼を、真っ直ぐに見据えた。
僕は今、逃げられない状態で運ばれている。
ここから脱するにはどうしたらいいんだろう?
時間はないけれど、ここで考えている分には、現実で考えるよりはずっと速い。
何故か...そんな気がする。
『アディブ人は進化していく』
『大きな変化は不可逆だぜ』
ジガスさんとロームさんの声がこだまする。
進化って、どうやればいいんだろう?
「こうなりたい」って思えばいいのかな?
だったら、今の僕は何を思えばいい?
............そうだ、ペイラック。
ペイラックより早く飛べれば、早く飛ぶためのあの推進機みたいなものが...欲しい!
◇◆◇
クルスがその結論に到達したと同時に、彼の体に変化が生まれる。
細胞の高速自己増殖による肉体の治癒は、そのまま肉体を変化させることにも応用されるのである。
その背から、ジェットエンジンのような大型の機構が芽生え、翼が生まれた。
「なんだと!?」
無名のアディブ人は驚愕する。
不可逆の変化をこんなところで使うのかと。
クルスの体内に、取り込んだ空気を圧縮する器官が生成され、それが背の排気口部と繋がる。
「ウォオオオオオオオオ!!」
「ちぃっ!」
クルスが大口を開け、咆哮する。
それは今までの彼ではないかのようであった。
急速に取り込まれた空気が圧縮を終え、全力で噴射された。
流石のアディブ人も、物理現象には勝てない。
別の推力が軌道を逸らし、二人はビルに突っ込む。
だが、止まらない。
その程度で諦めるアディブ人ではないのだ。
「僕は......!」
岩のように動かない腕を、クルスは掴む。
それを見て、アディブ人はほくそ笑む。
同時に二つの変化は起こせないのだから。
時間をかけて行うものを、すぐにできるほどアディブ人は便利な身体をしていない。
「僕は.......帰る、んだ...!」
「バカな!」
クルスの両腕が隆起する。
二つの大きな変化を同時に進行させることに成功したのである。
クルスによって、軌道が無理やり地面に捻じ曲げられ、二人は頭から郊外の道路に突っ込む。
全体重がアディブ人側に掛かったところで、クルスは全力で腕を引きはがし、そのまま飛んで離脱する。
「ク....だが、再び捕まえれば済むこと....」
「そうは問屋が卸さんぜ」
アディブ人が空気を取り込もうとしたその時。
背後に、ドラムが立っていた。
即座に動こうとするアディブ人だが、飛び込んだドラムが、その強靭な硬さを持つ筈の胸に右腕を突き刺していた。
そして、中で何かを掴んで、捻って――――抜く。
「やめろ、やめろ!」
「断るぜ」
幾つもの管が繋がった、輝く宝石のようなものを取り出したドラムは、それを黙って握りつぶした。
黒鱗のアディブ人は暫く暴れていたが、すぐにその体から色が失われ、砂になって崩れ落ちていく。
完全に崩れ去るころには、風に吹かれてどこかへと消えていた。
「さーて、あいつを追わないと怒られるな」
ドラムは翼を開き、めちゃくちゃな飛行を続けるクルスを超高速で追いかけた。
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