041-飛び出すことが先決
それから数駅を経て、もう少しで乗り換える『樫真駅』に到着するという時。
僕らは、車内販売で購入した弁当を食べていた。
あまりお腹が空いた感じはしなかったけれど、ロームさんがくれた水を飲んだら、胃の中で膨らんだのかお腹の足しにはなった。
二人は弁当箱ごと丸のみにしたけど、僕は一個一個の料理をフォークで突き刺して口に運んだ。
アディブ人はあまりカトラリーを使わないみたいで(当然といえば当然だけど)、基本的には舌を使ってものを掴めるらしい。
僕も練習すれば....って、はしたないか。
「......ところで」
「なんだ?」
ジガスさんは目を閉じてじっとしているので、代わりに僕はロームさんに話しかける。
気になった事があったからだ。
「前に居た、空が飛べるアディブ人みたいに、僕も空が飛べたりするんでしょうか?」
「飛べるけどよ、大きな変化は不可逆だぜ?」
「そうなんですか?」
「だから乗り物があるんだぜ?」
そうなのか....
そういえば、アディブ人がどうやって身体を変化させているのか、僕にはわからない。
あとでレイシェさんに教えてもらおうかな。
飴がなくなってしまったので、買い直そうと僕が席を立った時。
凄まじい破砕音がどこか遠くから響いてきた。
遅れて、少し揺れる。
「......? 何でしょう?」
「分かんねぇ、まあいつもの事だろ?」
「そうですかね....」
情報が無いので、僕は席に座ってじっと待つ。
だけど、その内にロームさんが気になる事を言い出した。
「.....なんか加速してね?」
「え、でも.....」
新幹線は自動操縦で、殆ど速度が変わらないはず。
....僕の知らないうちに変わってたらあれだけど、アディブ人の技術で自動化されているって話だったはずなんだけど...
「お、レイシェから連絡だぜ」
「なんて言ってるんです?」
「この乗り物はヤバいからとっとと降りろだってよ」
「何がどうヤバいんですか?」
「制御システムが人間に乗っ取られて加速中らしいぜ、このまま乗っててもいいけどよ...降りた方がいいってよ」
それはすごくまずいのでは?
僕はふとそう思ったけれど、ここから直線距離で終点までかなりある。
アディブ人の技術ならいくらでもやりようはあるんだろう。
降りようかな...だけど、まずはやることがある。
カスミと、その家族を助けないと。
流石に他の人間を庇ってる余裕は無い。
「いや、でも...」
ここで大勢死んだら、アディブ人の心象が悪くなるかも。
いや、だけどアディブ人なら人が大勢死ぬのは避けるはず...
「ジガスさん、ロームさん」
「なんだー?」
「真面目だな」
「動力はあくまで先頭車両だけなんですよね?」
「そうなるな」
「先頭車両は無人なんでしょうか?」
「一応なー」
それなら...先頭車両だけを切り離して、客車を僕やみんなで減速させ、先頭車両に追いついてひっくり返せば解決できそうに思える。
緊急ブレーキが作動しないなら、客車は放っておいてもいつかは止まるけど、一応。
僕はそれを、二人に説明する。
二人はそれを聞いて、反対するかと思ったんだけど...
「へぇ」
「面白そうだな、やろうぜ」
意外と賛成してくれた。
それなら話は早い。
僕らは急いで、外への扉があるスペースへと移動した。
「.........」
そこで、僕は足を止めた。
こんなことをしても意味はあるんだろうか?
すぐに助けが来るはずで、もしかしたらすぐ復旧できるかもしれない。
アディブ人なら、飛行型かペイラックですぐこっちに来れるはずだから。
「あー? あ、了解っす...クルス、このままだとまずいぜ」
そのとき、クジェレンを取り出したロームさんが一言二言会話を交わして、僕の方に声をかけてきた。
振り返ると、ロームさんがクジェレンの画面をこっちに向ける。
そこには、線路上に横たわるビルがあった。
隙間を縫って、人間が逃げ出しているのを数人のアディブ人がサポートしている。
「...現実の映像ですか?」
「そうらしい、流石にここに突っ込んだらやばいよな?」
「...はい」
思ったより規模が大きい。
事故じゃなくて、テロのように思えた。
とにかく、客車だけでも分離することが重要だ。
「ようし、やってやりましょう!」
「その意気だぜ!」
僕はドアを蹴破る。
そして、客車の屋根へと飛び上がるのだった。
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