040-鈍感
長かった温泉旅行も終わり、僕たちは帰る事になった。
ジガスさんとロームさんに温泉旅行の概念を説明するのにちょっと時間がかかったが.....
「帰りは新幹線で良かったですね」
「遅くねーかー?」
「ニンゲンどもは速度出しすぎると死んじまうのさ」
まさにその通りで、アディブ人なら宇宙から地球までスカイダイビングしても大丈夫らしい。
だけど人間にはそんなことは出来ない。
だから、彼らには...彼女らには?
とにかくジガスさんとロームさんには、人間がこんな遅いもので移動するのが信じられないようだ。
「ペイラックに乗ればどれくらいで着く距離なんですか?」
「30分くらいだな」
「そのくらいだ」
速い。
新幹線で二時間半かかる距離なのに...
僕は外を見る。
片側三シートを若干はみ出す形で占拠している僕らだが、一応新幹線代は自費だ。
僕ら三人分の席を用意するのは、彼女にも悪いし。
『――――――――、――――――――』
その時、アナウンスが響く。
海外旅行で車内放送を聞いた時のように、今の僕には意味不明な言葉の羅列でしかないけれど...
「もうすぐ途中の駅に止まるみたいです」
「そうか」
「まだ着かないのかー?」
そうは言っても...
僕は再び窓の外を見る。
新幹線から見えるように作られた看板なども見えるけれど、こちらは読める。
温泉旅行は楽しかったけれど、戻ったら自分の義務と立ち向かわないと。
人間に戻らないといけないのだから。
「ちょっと、何か買ってきます」
「あいよ」
ジガスさんとロームさんは、一度通路に出る。
身体が大きいので、通路に出ないと僕が出られないからだ。
僕は通路を歩く。
流石に新幹線は利用者が多くて、視線が僕に集まる。
アディブ人は、確かに会う機会が殆どない。
人間の頃も、アディブ人をテレビや映像資料で見たことはあったけれど、実際にどこか街角で見たとか、そういうのはなかった気がする。
新幹線の車両の後部には、トイレや自動販売機が設置されたスペースがあり、ちょっとした軽食や飲料が買えるようになっていた。
軽食は今の僕の胃袋にはちょっと小さすぎるので、飴を買った。
「.........」
飴を舐めながら僕は来た道を戻る。
扉を開けたところで、
「あ」
「――?」
カスミが立っていた。
僕は慌てて退く。
僕の体が大きいから、一旦開ける中間スペースに移動する。
これで彼女は通れるはずだ。
「――――? ――」
「....通らないの?」
しかし、カスミはその場から動かない。
動かずに、僕の目をただ見ていた。
彼女はスマホを取り出すと、それをしばらく操作した。
クジェレンで確認すると、
『どうして逃げるんですか?』
と書かれていた。
違う、僕は逃げてなんかいない。
慌てて首を振ると、彼女は困惑を顔に浮かべる。
「逃げていない」
『では、どうして避けるんですか?』
困った。
スタンプだけでは、どうしても伝えられない。
色々な事情があるのに....
「おーい」
その時。
なかなか戻ってこない僕を心配したのか、ロームさんが呼びに来た。
僕は卑怯だと思いつつも、ロームさんの方へ向く。
「どうしたんだ?」
「ちょっと....話してて」
「そうか」
僕はロームさんと共に席へ戻ったけれど、RINEでこう返すのを忘れなかった。
『またね』
と。
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