038-温泉旅行6
翌日。
僕は温泉に入って待っていた。
昼間は温泉街に出て行って、饅頭に興味を示して試食を食い散らかす二人を止めたり、足湯に入ろうとする二人を引きずって止めたりと大変な目に遭った。
「......」
僕が待っているのは、カスミだ。
昼間に三人でお蕎麦を食べた時に、僕の悩みをジガスさんに見抜かれたのだ。
『お前、悩みがあるだろ。そういうのは任務に響くからとっとと解決しようぜ!』
などと、蕎麦湯を飲みながら言われた。
悩みとは、当然カスミとお風呂に入ったときのことだ。
カスミは僕と一緒に入りたかったんだけど、僕は人間としての尊厳からそれを拒否した。
でも、それはカスミには拒絶に映ったんだ。
「はぁ...」
今いるのは女湯なわけで、端に詰めた僕の浴槽には、戦々恐々とした雰囲気で女性が入ってくる。
しかし、その中にカスミはいない。
「.........」
また、湯を掬ってみる。
その時、耳に扉を開く音が聞こえた。
「.....来た」
今こそ向き合う時だ。
僕はまっすぐ前を見る。
「やっぱり」
カスミがそこにいた。
僕は手を振り、カスミに注意を促す。
カスミは、少し驚いた様子でこちらに近づいてくる。
「...こっちに来て」
不思議と勇気が湧いてきて、僕はカスミのためのスペースを横に開けた。
一瞬、拒否されるかとも思ったけれど...カスミはそのまま、僕の横に入ってきた。
「...ッ」
僕は男のはずなのに。
こんなのはいけないことのはずだ。
でも、これは彼女から望んできたことだし、僕はそれに応じないと。
そうしないと...後悔する気がしたから。
「.........」
さて、どうすればいいのだろう。
と思っていたら、カスミが僕の鱗をなぞり始めた。
これは...どういう意図なんだろうか?
「...そんなに好き?」
5分近く経って、カスミはようやく手を離した。
その視線が、僕の体を伝って...僕の顔に移った。
何を求めているの? その艶めかしい視線はなんなの?
言葉が通じないのが、やたらともどかしかった。
「......ボクには、これしか出来ないけど」
僕はカスミを抱きしめた。
双丘の真下にカスミの頭が来るような格好になって、なんだか恥ずかしくも思えた。
だけど、周囲に人の気配はない。
見られて困る事はない。
「なら、いいよな」
僕は両手でしっかりと、カスミを抱きしめた。
脆い花を手折らないように、そうっと。
「―――――――――」
「...?」
「――――」
それが終われば、カスミはお湯から上がって洗い場の方へ向かっていった。
何だったんだろう...
だけど、これで心残りは消えた。
僕も、お風呂から上がって脱衣所に足を踏み入れた。
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