034-温泉旅行2
窓からは、絶景が見えていた。
旅館の反対側にある森林と谷川、奥に見える山々が、雄大な自然という感じだった。
「へぇ、ここがニンゲンの借家なんだな」
「借家じゃなくて、数日泊まる...うーん、なんでしょう。仮拠点のようなものなんです」
僕はふと、アディブ語に旅館の概念がない事を思い出した。
そういうわけで、仮拠点という表現が、僕の語彙での限界でもあった。
「この床はなんの意味があるんだ?」
「人間は靴を脱いでここに上がるんですよ」
「へぇ、ナラフォンみたいな感じか」
知らない単語を口にしつつ、僕らは部屋の中に入る。
左右に部屋があるタイプのお部屋で、左はリビング、右は布団を敷く場所になっていた。
布団でよかった、僕達だとベッドが壊れてしまうし。
「お、これはなんだ?」
「それはお茶のキットですね、アディブ人はボタンを押すだけで飲み物が出てきますけど、人間は自分で淹れるんです」
僕の説明に、二人は関心深そうな顔をする。
「試しに作ってくれよ、興味あるぜ」
「わかりました」
僕はポットに水をいっぱいに汲み、電気ポットでお湯が沸くのを待つ。
お湯が沸いたら、お茶菓子を食べている二人の前でお茶を淹れる。
といっても、ティーバッグを入れた湯呑みにお湯を入れるだけだけど。
「もう飲めるのか?」
「いえ、もう少し待ちましょう」
「あんまり美味そうな色してねえな...」
緑茶は異星人ウケも悪かったようだ。
ただ、実際に飲んでみると。
「うーむ、不思議な味だな」
「もう一杯くれ!」
「はい」
ジガスさんは微妙な顔をしたが、ロームさんは何かを気に入ったようで結局四杯も飲んだ。
あと、僕の分の紅葉饅頭は無くなっていた。
「さて、そろそろお風呂に行きましょうか」
「オフロ?」
「温泉のある場所ですよ」
「......へぇ、行くか!」
僕らは一見すると爬虫類に見えるが、実際は人間種に近いのでお風呂に入ってもお風呂が汚れることは無い。
そういうわけで、安心して大浴場へ行けるのだ。
「ボクらに合う浴衣がないのが残念です」
「ユカタ?」
「伝統的な衣装です、こういう場所に泊まるとみんな着るんです」
僕らは身軽なので、カードキーにだけ気をつけて部屋を出る。
そして、地下にあるらしい大浴場へ向けて歩き出した。
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