023-奇妙な会話
「......うーん」
二枚目のステーキを口に入れて、僕は違和感を感じていた。
美味しい、美味しいんだけど.....なんか、満足がいかない。
塩味が足りないのかなと思ったけど、そういうわけでもない。
「.......うーん、よく分からないな」
原因不明なので、とりあえず目の前の肉をすべて平らげることにした。
脂が乗って、とても美味しい肉だ。
奥歯で噛み締めて、味わう。
でも、何か足りないような気がする。
「...まあいいか」
僕は食事をそこで切り上げることにした。
お腹いっぱいに食べるのもいいけど、それだと一万円じゃ到底足りないからなぁ...
帰ってレイシェさんに何か作ってもらおう。
「誘ってくれてありがとう」
僕は立ち上がり、礼をして去ろうとした。
そのとき。
カスミが僕の腕を掴んだ。
そして、スマホの画面を僕に向けた。
『少し二人でお話をしませんか』
そこに書かれた文面を見て、僕は頷いた。
頷いた事で、僕が日本語を読めることを確認したのか、カスミは席を立った。
「――――――!?」
「――――...」
二人が騒ぐけど、カスミは気にした様子を見せない。
僕たちは店を出て、少し路地に入った場所で話をする事にした。
『あなたに聞きたいことがあります』
「うん」
僕は頷く。
カスミは再びメモアプリらしきものに文面を打ち込み、見せてきた。
『あなたは日本語がわかりますか?』
「うん」
『...頷く動作は、肯定の意味で合っていますか?』
「うん」
コクコクと、強調して僕は頷く。
他のアディブ人がどうかは知らないけれど、少なくとも人間の時と動作は変わりない。
『では、質問を言います』
僕は彼女の質問を待った。
そして――――硬直した。
『栗原柊太という人間について知っていることはありますか?』
...彼女は、やはり僕を栗原柊太としては見ていなかった。
きっと話しても信じてもらえないだろう。
「...ごめん」
僕は首を横に振った。
これでいいんだ。
栗原柊太はもういない、カスミが僕と関わる理由も...
『アディブ人に、地球人との交流制限はありますか?』
「んん?」
僕は固まる。
予想もしない質問だったから。
一応首を振ると、こんな答えが返ってきた。
『連絡先を交換しませんか?』
「クジェレンが使えればいいけど...」
僕はクジェレンを起動し、カスミと連絡を取りたい旨をクジェレンに伝えた。
すると...カスミが、驚いた様子で画面を見せてくる。
そこには、ホーム画面にアディブ語のアプリが追加されている光景だった。
『これで連絡が取れますね』
「...みたいだ」
日本語入力には対応していないので、RINEのスタンプを無理やり読み込んで意思疎通に使う事にした。
こうして、奇妙な...けれど安心感のある絆が戻ってきたのだった。
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