021-気まずい再会
「......」
僕は夕日の沈みつつある街を歩いていた。
レイシェさんと別れたあと、ロームさんに受け取りを頼まれていた家電を受け取るためだ。
街並みは変わらず、僕は人々に避けられながら歩いていた。
いっちょ買い食いでもしようかと思ったけれど、人間相手じゃ身振り手振りで手間が掛かる。
夜ご飯までには帰りたいし、それくらいじゃきっとお腹いっぱいにはならないだろう。
「バスに乗りたいなぁ」
疲れはしないけど、精神的にかなりきつい。
避けられているのもそうだし、奇異の視線を向けられるのも。
「今は.....もうちょっとかな」
クジェレンがあるおかげで、地図も表示できる。
地下鉄の駅から離れてるから、歩いて行かないといけないのがなあ.....
「――――?」
その時。
周囲の雑音の中から、見知った声が聞こえたような気がした。
そちらを振り向くと――――
「.....カスミ!? それに......リュウゴと、カッシー.....」
僕の親友...というほどじゃないけれど、大学の友達だ。
カスミと交流があったんだ、初めて知った。
「――――――、――――?」
「...ええと」
僕はカスミが近寄ってくるのを見ていた。
隆吾と樫木も、それに引っ張られるように近づいてくる。
「――――!」
「――、――――――」
聞き慣れたはずの二人の声も、雑音にしか聞こえない。
それが無性に悲しいのだが、今はそれどころじゃない。
「...ボクはどうすれば」
「――――...――――――!」
「ついてきてほしいのかな」
何しろ言葉が通じないので、ジェスチャーでやり取りをするしかない。
クジェレンに翻訳がないか見てみたけれど、そういう類のものはなかった。
「――――」
「わかった」
多分ついてこい的な意思表示だと思う。
僕は三人について行くことにした。
仮に何かあっても、急いでレイシェさんに連絡すれば救助してもらえるだろうから。
三人と共にやって来たのは、ファミレスの前であった。
「――――、――――」
カスミは、財布を見せてそれに触って自分に当てるジェスチャーをした。
奢ってくれるのかな?
まあ別に、自分の食事代くらいは払えるけど...
「待って」
僕は待ってとジェスチャーで示すと、クジェレンを起動した。
ディオームを開いて、レイシェさんに連絡を取る。
『旧友三人に、ファミリーレストランに誘われました。どうすれば良いでしょうか?』
『問題ないわ、ただし自分の分は自分で払いなさい。人間に借りを作らないこと...それと、あなたの正体を悟られないようにしなさい』
返事はすぐに来た。
結構難しい注文だけど...
「うん」
僕は頷くと、三人と共に店内に足を踏み入れた。
正確には、踏み入れようとして敷居に頭をぶつけた。
「――――ッ」
痛みはないけれど、少し吃驚した。
僕が頭を押さえているのを見て、隆吾が怯えるような様子を見せた。
僕が怒ったかと思ったのかな。
「大丈夫」
僕は何でもない、といったふうに首を振る。
「――――――? ――――」
「――――、――――――」
店員さんは僕を見て驚いていたものの、広めの席に案内してくれた。
「――――?」
早速メニューを開く僕だけど、これをどう伝えたらいいか迷う。
とりあえずミートソースのスパゲッティと、ステーキ三枚と決めて、皆が注文を決めるのを待つ。
「――――――、――――!」
「――、――――――」
「――――――?」
三人は割と早く決めたらしくて、僕に注文を振ってきた。
僕はスパゲッティを指さして、その次にステーキのページで牛肉のステーキを指さし、三本指を立てた。
「――?」
「うん」
僕は頷いて、鱗の隙間から一万円札を出した。
軍資金だ。
カスミは首を振って否定するけれど、僕は一万円を突き出した。
奢ってもらうのは、僕の良心とレイシェさんが許さない。
「――――――」
ピンポーン、と呼び出しベルが鳴り、店員さんがやって来た。
注文を受け、そそくさと戻って行く。
料理が来るのが楽しみだ。
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