020-クジェレン
「今日はクジェレンを選びに行くわよ」
「クジェレン...って、アディブ人の端末の事でしたっけ?」
アディブ人の使う機械はこの携帯端末がないと動かせないことが多く、その機能自体も僕の想像する携帯からは大きくかけ離れた多機能さを誇る。
例えば電話だけど、これは遠く離れたアディブ星と映像星間通信で遅延わずか4秒程度で会話できる。
そのほかにもインターネットに地球上どこでも繋げたりできたり、今まで出来なかったことが出来るようになりそうで少し怖い。
「売ってるものなんですか?」
「ええ、生まれの事情でクジェレンを後付けする人も、こっちで壊れたから新しいものを買い求める人もいるわ。今回は事前に話を通してあるから、完全に新しいものをあなたに渡すわ。.....それで、戸籍と紐付ければあなたはとりあえず、クリーンなアディブ人になるわね」
クリーンなアディブ人...
あんまり聞き覚えのない言葉だけど、とりあえず身元の心配はしなくて良くなった。
「やっとお給料が出せるわ」
「えっ?」
僕は驚いてつい、口に出してしまった。
レイシェさんはうんうんと頷くと、
「配達任務を終えたでしょう? これからはパトロール任務に加わってもらうわ」
「パトロール...といっても、僕じゃ勝てませんよね?」
「大丈夫よ。ジガスとロームの補佐のようなものね...あの二人、腕っぷしが強くても人間との交渉には向かないのよ」
「それで良いんですか...?」
「ええ。あなたは元に戻りたいそうだけど、戻れなかった時のことは考えているかしら?」
僕は言葉に詰まる。
それを見越していたのか、レイシェさんは肘置きを出してそこに寄りかかり、言った。
「アディブ人の寿命は短くても10000年程度。だからあなたは、この星で最短でも10000年過ごす事になるわ。その間に何が起きるかわからないでしょう?」
「そのために、アディブ人のお金を?」
「そうね」
レイシェさんは、保護者として僕のことをちゃんと考えてくれていた。
それに、目頭が熱くなった。
「さあ行くわよ、クジェレンを選びに」
「はい!」
僕は頷いて、立ち上がったのだった。
クジェレンの店は、想像していた様相とは全く異なっていた。
殺風景な何もない一室に、一人のアディブ人が立っているだけだ。
「こんにちは、クルス様」
「こんにちは」
店員さんに話しかけられ、僕も挨拶を交わす。
「本日はクジェレンをお求めの事でしたね」
「はい」
僕は頷く。
店員さんは床からソファと机を出し、僕らに席を勧めた。
座ると、またどこからか飲み物が出てくる。
「クルス様は今までクジェレンにご興味がなかったようなので、私が説明しますね」
店員さんが机に指を触れると、僕の前に一つのホログラムが表示された。
「クジェレンは主に三種類あります。身につける携帯型、皮下に埋め込む埋め込み型、最後に.....あまり行われませんが、体内に入れる一体型になります」
「何か違いがあるのですか?」
「はい。様々な違いがありますが、最も大きな差異を一言で言えば、反応速度の違いですね....一体型、埋め込み型、携帯型の順で遅くなります」
「なるほど...」
普通に考えれば、埋め込み型の方が便利かもしれない。
だけど、人間に戻ることを考えると、僕に埋め込み型は必要ない。
「携帯型でお願いします」
「分かりました」
ふと横目でレイシェさんを見ると、ふっと微笑んでいるだけだった。
数分もしないうちに、僕の前に携帯型クジェレンが届けられる。
「...なんだか、不思議な形ですね」
「装着しやすいように、鱗の間に差し込めるようになっているんですよ」
「なるほど」
僕はそれを首の鱗の間に差してみる。
当たり前のように納まったクジェレンは、起動したのか僕の前にモニターを出した。
「これは?」
「あなたの生体パルスを読み取って認証システムを作っているんですよ。これで他人には使えません」
パスワードにすればいいと思うんだけど、アディブ人の技術を疑う余地はなし。
きっと偽装できないような仕組みがあるんだと思う。
「これで、使えますか?」
「はい。初期設定はこちらでやっておきましたので問題ありません」
凄く早い。
まあ、機種変更という訳ではないので色々楽なんだろう。
「レイシェさん」
「ええ。良かったわね...これで、乗り物が使えるようになったわ」
「もうですか?」
「事故を起こしても怪我しないでしょう? 人のいないところで練習しなさい」
「...わかりました」
僕はその言葉に頷いたのであった。
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