019-貴重な貰い物
「さて、全身図は出来たね...次は素材の指定からだ」
「ただの岩じゃダメなんですか?」
「石といっても色々あるからね、脆すぎても加工できないし、硬すぎると今度は繊細な細工が出来ない」
彫刻家の人は、完成した僕の立体映像を見ながら言った。
確かに。
僕にもかなりわかりやすい説明だった。
「色の指定はあるかい? ないなら後からでも素材を発注して作るんだけどね」
「特には...」
「じゃあ、大理石で作ろう」
その人は空中のディスプレイを操作しながら言った。
何気に、凄い技術だ。
僕らの文明レベルでは、想像すらできないそれ。
「やっぱり、手で作るんですか?」
「そうだね。機械で加工するのは簡単だけど、それじゃあまりに綺麗すぎるんだ」
不思議なことを言いつつ、彫刻家のお兄さんは一つの長方形の石を見せてくれた。
「もう君が必要な作業は終わったから、帰りに見ていかないかい?」
「...はい!」
願ってもいない提案に、僕は喜んで頷く。
お兄さんは床から現れた机の上にそれを置くと、机の横を開けて見慣れた道具を取り出した。
「行くよ」
「は、はい」
直後、お兄さんは電動かと見紛うような速度で石を削り始めた。
僕は破片が飛んでくるので下の目を閉じて、上の目で作業を見守る。
「.............」
数分もしないうちに、正方形はある程度の形になって来る。
これは........
「僕と.....あなたと.....机?」
「そう、さっきの食事の風景を作ってみようと思ってさ」
お兄さんは道具を持ち替え、より細かい細工を始めた。
輪郭だけでしかなかったものに、線が入り、一目見れば風景が頭に浮かぶような深みが生まれていく。
それをじっと見つめていた僕は、お兄さんが言った言葉をしばらく咀嚼することになった。
「終わったよ」
「...............................あ、はい!」
僕は机の上に出来上がったものを見た。
僕が丸焼きの肉を頬張り、それをお兄さんが薄い笑いを浮かべて見つめている彫り物だ。
「それは持って帰っていいよ。君の彫刻は完成したら知らせるから、処分は自分で決めるといい」
「ありがとうございます!」
「いいよ。久々に同族と話せて、またやる気が湧いてきたよ」
僕は硬そうな容器に包んでもらった彫刻を貰って、彫刻家の人の家を後にした。
この時の僕は知らなかった。
この人こそが、高名な彫刻家であるとある人をフロント企業として彫刻を卸しているアディブ人だったのだと。
そして、自分が貰ったものが決して安いものではないと知る事を。
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