018-彫刻家
ついに、配達任務も終わる時が来た。
僕がずっと目を逸らしてきた、最後の配達物を配達することになったのだ。
それは、鞄にも入らないほど大きい荷物。
両手で持っていかないといけない荷物で、運ぶ先は隣町。
アディブ人の乗り物があれば良いんだけど、あれはみんなが持ってる携帯端末がないと操作できない。
二人乗りの概念もないので、僕は黙って徒歩で運ぶことにした。
「ごめんくださーい」
語るも涙な運搬劇を経て、僕は指定の家まで辿り着いた。
今度は公園のオブジェに偽装されている家で、近付くとインターホンが現れた。
それを押してしばらく待つと、一人のアディブ人が近くの草むらから出てきた。
「はいはい.....って、随分と若い子が来たねぇ」
「えっと.....お届け物です」
「分かった、下に降ろすよ」
その人は、配達物をオブジェの横に降ろす。
すると地面が沈んで、配達物が下へと降りていく。
「では、これで.....」
「君、せっかくだから僕の家に来ないかい?」
「....良いんですか?」
「ちょっとスランプ気味なんだ、君と話がしたい」
「分かりました」
何をしている人なんだろう?
そう思いつつ、僕はその人についていく。
草むらの中には、狭い横穴があった。
「君は胸が大きいから、つかえるかもしれないね」
「そうなったら、どうするんですか?」
「そしたら帰ってもらうしかないね」
ハハハ、とその人は笑った。
変わった人だな....
そう思いつつ、僕はその人に続いて横穴を潜る。
幸いにも、穴が縦に大きかったので通ることができた。
ロームさんなら無理だったかも?
「さあ、ここが僕の秘密基地だ」
「わぁ......」
地下深くにあったのは、縦横に広い空間だった。
そこに、大小様々な彫刻が並んでいる。
「彫刻家なんですか?」
「趣味だよ、地球の石は安いからねぇ」
彫刻家のお兄さんは、階段を降りて作業場に移動した。
僕が後を追うと、お兄さんは近くの布を引っぺがす。
「これは.....?」
「何か作ろうと思ったんだけど、アイデアが浮かばないんだ。君、考えてくれないかな?」
「....僕にですか?」
お兄さんはさっと身を翻すと、すぐ傍のパネルを操作して机と椅子を床から出した。
「お昼はまだだよね?」
「あ、はい」
「一緒に食べないかい?」
「勿論です」
どうもアディブ人は、若い人にはご飯を奢らなきゃいけない風習でもあるみたいだ。
それとも、会いに来た人には、なのかな?
「種族の忌避とかはあるかい?」
「いえ、特には」
「じゃあ、僕のおまかせでいいよね」
お兄さんはパネルを操作して、なんだか即席みたいな雰囲気の大皿と小皿の料理を出してきた。
何かの肉の塊の丸焼きと、丸パンだった。
多少物足りなく感じるけれど、これがこの人の嗜好なんだろう。
「適当にちぎって食べていいよ」
「いただきます」
僕は肉の塊から一部を剝がすと、それを口に入れた。
味が口内に広がっていく。
「美味しいですね」
「そうかい? まあ、僕にとっては日常の味なんだけどね.....」
これも、マルセア肉なのかな?
そう思いつつ肉を噛んでいると、お兄さんが話しかけてきた。
「作りたいものは決まったかな?」
「うーん.......生き物は大体作ったんですか?」
「そうだね、ここにないものは別宅に置いてるから分からないと思うけど.....ざっと数万は作ってるから」
となると、生き物じゃダメか......
「人間はどうですか?」
「うーん......作ってもいいんだけど、趣味が悪くないかい?」
「そうですか?」
「うん」
そうまで言われると.......
でも、じゃあどうするのって話だよね....
「そうだ!」
「おっ、思いついたかい」
ちょっと傲慢な気もするけど...まあ、いいよね。
「僕を作ってください!」
「....おっと、確かにいい提案かもしれないね」
意外に好感触だった。
人間よりはまし.....って感じなのかな?
「君はなかなか可愛いからね、彫りがいがあるよ」
「そ、そうですか....?」
可愛いって褒められると、ちょっと変な気持ちになる。
でも、向こうは気にしていないので単純に美醜の問題なんだろうな。
「早速立とうか。君をスキャン装置にかけるよ」
「ずっと立っててって言われるかと思いました」
「別にそれでもいいんだけどね」
僕は部屋の真ん中に案内される。
「おっと、動かないでね。できれば両手は上げて。脇を晒してほしいな」
「は、はい」
複数のスキャン装置が僕を取り囲み、多角的に僕の全身図を作っていくのだった。
↓小説家になろう 勝手にランキング投票お願いします。