017-アディブ人の釣り師
それから数日後。
配達する荷物もだいぶ少なくなってきた時分に、僕はとある家を訪れていた。
結構大型の荷物で、バックパックを使わないと運べなかった。
「あれ?」
通常の住宅に偽装されている入り口を見つけてチャイムを鳴らすが、返事がない。
「ごめんくださーい」
「おやっ!? すまない、裏に回ってくれ〜」
「はい」
言われるがままに裏に回ると、そこでは釣り竿を持ったアディブ人が座っていた。
全然気づかなかったけれど、家の裏手には川が流れていて、そこの魚を釣っていたようだ。
腕が四本あって、二本で釣竿を支えている。
「釣りですか?」
「おう...って、釣りを知っとるのか?」
「はい、一応」
危ない。
アディブ人が釣りをするのかも僕は知らなかった。
彼らなら、素手で捕りそうなイメージがある。
「釣りはいい。ゆっくりできるが、獲物がかかれば即座に戦いになる」
「釣った魚は食べるんですか?」
「いや、放流するぞ? 魚を食べるのはこの星の人間だけで、それをわしらが乱すわけにはいかんからな。....それに、質の悪い食事は嫌いだ」
ああ、確かにそうかも。
一応ここは郊外に当たるけど、魚の質は悪いかもしれない。
趣味としての釣りなら、それで食べていく気はないのかもしれない。
「餌はどうしてるんですか?」
「自分で採っているぞ。それでも一部は飼っているのを使っているのだが」
それもそうか。
餌を買いに行っても怖がられてしまうし....
「それで、何の用だったかな」
「お届け物です」
僕はバックパックから箱を出した。
釣り師の人は、それを見て眼を見開く。
「おお、配達が遅れているからもう少しかかると思っていたのだが」
「中身は何ですか?」
「.....まぁ、言ってもいいか。生け簀を作るための、使い捨て建設キットだ」
「生簀ですか?」
「ああ、魚を飼育したくてな」
「育ったら放流するんですか?」
「そうなるな」
なるほど。
確かに、それなら生簀は必要だ。
この人は本当に趣味の人なんだなと思いつつ、僕は箱を指差す。
「家までお運びしますか?」
「いや、ここでいい。自分で持っていくからな.....それで、何かお礼をしたいのだが.....」
「そんな、構わないですよ」
僕は慌てて首を振る。
あくまで仕事だし。
「老人のお礼を断るものではないぞ、子供にモノを運ばせたなら、お礼はせんとならんからな.....そうだ」
その時、釣り人はバケツの中にいた魚を渡してくる。
種類は分からないけれど、そこそこ大きい。
「種類はわしも分からんが、多分美味いだろう。腹の足しにはならないだろうが、持っていくと良い」
「わかりました、ありがとうございます」
僕は魚を受け取り、ついでにもらったビニール袋に包んでバックパックに入れた。
帰ったらとりあえず食べてみようと思う。
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