013-観光(?)
ご飯を食べ終えた僕たちは、ショッピングに出掛けることにした。
ジガスさんの知り合いらしい、他のアディブの人たちも一緒だ。
「よう、坊ちゃん。名前はなんて言うんだ?」
「く、クルスです...」
僕はこのメンバーの中では当然最年少で、坊ちゃん坊ちゃんと興味津々のアディブ人たちに質問責めに遭いながら歩く。
「どっから来たんだ?」
「エルクからです」
「ああ、良いところだよな、避暑地だろ」
僕は、出かけるに際して怪しまれないようにレイシェさんから色々教えてもらっていた。
エルクは、日中2000〜3000℃にもなる都市部から離れて、極寒の環境でバカンスを楽しめる避暑地らしい。
アディブ人だと、太陽に突っ込んでも熱い程度で済むって事だよね...
そういえば、この姿になってから寒暖の差をあまり感じていないな、と僕は気付いた。
「はい、涼しいところですよ...といっても、ボクはあんまり知らないんですが」
「宇宙で過ごしたの? まぁ良い遊び場だよね」
この人たちの常識は、元地球人の僕からすると到底信じられないようなものだ。
でも、僕もそうなんだから、話を合わせていかないといけない。
「宇宙遊泳は楽しいんだけど、下手を打つと戻ってこれないからねぇ...」
アディブ人は呼吸を必要としないからこそ、戻って来れなくなったら栄養不足で死ぬまで本当にいつまでも死ねない。
それは僕の目にはとても怖く映った。
「テッラに居るって事は、旅行かしら?」
「いや、レイシェの姉貴の養子なんだよ、こいつは」
ロームさんが何でもないことかのように言ったが、周囲から驚きの空気が広がり、口々に大声でこんな言葉が飛び出した。
「はぁ!? あの人に限って、そんな事あるか!?」
「いやいや...鉄のカーテンだろ、あの人は」
「まあ分からなくもないわ、クルスくんは可愛いもの」
最後の人に関しては、ノーコメントかな。
獲物を見るような目で見られたし、いつか襲われるかもしれないから、それは覚悟しておこう。
「はい、本当です。ボクはレイシェさんの養子になりました」
「へぇ...まぁ、レイシェの姉貴なら心配いらないな」
周囲から心配と安心が混じった視線が飛んでくる。
「おっと、もうすぐ着くぜ」
「ああ、ニンゲンの店だろ、気になるなぁ」
先導していたジガスさんが、全員に聞こえるように叫ぶ。
赤霧通りは、この一条市で一番大きな電気街だから、家電量販店もたくさんある。
その声を聞いて、一緒にいた人の一人が喋った。
つい、気になったので僕も聞いてみることにした。
「そんなに面白いんですか?」
「ああ、ニンゲンは俺たちにはない発想をするからな、それが堪らなく面白いんだ」
その人は、気安く答えてくれた。
どうやら、人間の製品をえらく気に入った様子だ。
まあでも......確かに、人間でも、古いものが好きな人はいるし、物珍しさもあるんだろう。
「俺が好きなのは、何だっけ....そうそう、ガスコンド!」
「ガスコンロ、だよバカ」
「そうそう.....アレがあれば、いつでも炎踊りができる!」
「ああ、お前....火山地帯出身だったな」
....前言撤回。
どうやら種族の儀式みたいなものに使うみたいだ。
「....そういえば、この星には火山があるよね、どうしてそっちに行かないの?」
「行ったんだけどよ.......中途半端だったから、熱くも寒くもないこの国が一番なのさ」
日本は暑くも寒くもない国だと認識されているみたいだ。
間違いじゃないけど。
「着いたぞ! ここだ!」
ジガスさんが手を振る。
そこは、僕が小さい頃に一度行ったことのある大型の家電量販店だった。
不思議と、懐かしくなる。
「新商品が楽しみだぜ!」
「今日こそは六階より上に行くんだ.....」
わくわくした雰囲気を隠さず、僕たちは建物の中に足を踏み入れたのであった。
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