012-アディブ人の食事処2
降りていくと、そこには既に数十人のアディブ人が集まっていた。
雑多な食堂を想像していた僕は、白く清潔に保たれた食堂を見て驚く。
「意外と、綺麗なんですね」
「意外か?」
「人間の特集で見たことあるぜ、人間ってのは汚ねえ場所が好きなんだ」
「へぇ!」
なんだか誤解を生みそうだったので、僕は訂正に動くことにした。
「人間は、汚いところというよりも...そう、古い感じのところが好きなんですよ」
「へえ、参考になるな」
「ああ」
笑い合いながら、僕たちは席を探す。
適当な席を三つ見つけると、ジガスさんが言った。
「坊主、ローム、何が食いたい?」
「め、メニューがあるんですか?」
「そりゃあるぜ」
ジガスさんがテーブルの表面をととんと叩くと、空中にメニューが投影された。
しかし、そのメニューはどれも...
「ペリデ風ガシシスのポルデ焼き...国産マルトのシッテネ...ボグンセット...分からないですね」
「うーむ、アディブになったからといって、常識は身につかないんだな」
「じゃあ、俺たちで決めちまおう」
読めなかった。
アディブ語の読み書きは出来るようになったけれど、固有名詞などは知らないと分からない。
要するに、コミュニケーションは出来るけど知識はゼロ状態。
「じゃ、こいつでいいだろう.....ジガス、頼んだ」
「了解、待ってろ」
ジガスさんは席を立ち、順番待ちの列に並んだ。
「そういえば、支払いはどうしているんですか?」
「あー、知らねぇのか....」
ちょっと気になったことだったけど、ロームさんは重要だと思ったらしく、僕に丁寧に説明してくれた。
「アークイストゥルディーカ.....長いから皆アークって略すんだが、そいつが通貨だ。アークルスエイジから名前を取った、歴史ある名前だな.....こいつが、クジェレンと連動してて、それで払うんだよ」
「ああ、人間にも同じ仕組みがありますね」
「そうなのか、やっぱり侮れないんだな!」
そんな雑談をしているうちに、ジガスさんがプレートを片手で持って戻ってきた。
「ほらよ」
「ありがとうございます」
僕も料理を受け取る。
何やら、紙に包まれている。
包装紙をはがしてみると、中からサンドイッチのようなものが登場した。
「そいつはニカラカって名前の料理だ、美味いぞ」
「いただきます」
僕はサンドイッチを両手で持つ。
押し潰してしまわないように、優しく持った後に舌で絡めとって口に入れた。
この伸縮自在の舌こそ、アディブ人の凄いところの一つでもある。
......この間、初めて知ったんだよね...驚いた。
それを見たジガスさんが、顔を険しくして言った。
「坊主、人前でそれはやるなよ」
「...ひょっひょひへ」
「食ってから喋れ」
口の中にものが入ったまま喋ったせいで、間抜けな発音になってしまった。
周囲のテーブルから小さな笑い声が聞こえてくる。
僕は飲み込んでから、質問した。
「人前で舌は出さないんですか?」
「ああ、便利だけどよ、みっともないだろ」
確かに...
周りの誰もやらないから、僕だけの特徴かと思ったけれど、そういうマナー的なものもあるらしい。
「今度、その辺も教えてくれませんか?」
「ああ、いいぜ」
ジガスさんはニヤリと笑って、頷いた。
まだニカラカは四個ほど残っているから、もう少し楽しめる。
僕は次のニカラカに手を伸ばした。
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