011-アディブ人の食事処
「.............」
僕は、お風呂に入っていた。
.....といっても、浴槽のお風呂じゃない。
「慣れない.....」
「ちゃんと全身洗えよ!」
呟くと、隣の個室からロームさんの怒鳴り声が聞こえてきた。
お風呂、というのは語弊があり、正確には洗浄液である。
ふわふわ浮かぶ水球に身体を浸して、しっかり洗う。
呼吸の必要がないからか、溺死対策もないから、人間がこれを使うのは相当勇気がいると思う。........そもそも、汚れを分解するこの液体、人肌にも有害なんじゃないかな?
「凄いですね、乾くのも一瞬で」
「ああ、反応が新鮮でいいな! 生まれた頃から当たり前でよ.....」
ジガスさんとロームさんは、一応事情を知っている。
驚く僕を、新鮮なものを見るような目で見ていた。
「それにしてもお前、胸もでかいな!」
「でも、意味はないんでしたよね....?」
「ああ!」
アディブ人は両性具有で、僕も胸を持ちながら男の特徴であるアレもある。
だけど、生殖能力はないからフシギだ。
「胸がでかいアディブ人は、幸運らしいぜ!」
「そんな、耳たぶみたいに....」
ちょっと下世話な話になるけど、乳頭もないから完全に飾りも同然だ。
じゃあ、何に使うかと言えば....
「これ、何かに使うとかあるんですか?」
「無いな、用途不明だって学校で勉強したよ....懐かしいぜ」
何にも使わないそうだ。
それに、僕は何となく違和感を覚えた。
でも.....アディブ人の歴史は教えてもらったけれど、変なところはないし、僕が疑ってもしょうがない。
今日はいい機会ということで、普段ジガスさんとロームさんがご飯を食べる場所に同行することにした。
普段、といっても二人は総督府で買ってきたものを食べている印象しかないけど、アディブ人が集まってご飯を食べる場所があるって聞いて少し興味がわいた。
「....でも、交通機関は人間のなんですね」
「俺たちの使う移動手段は、クジェレンが無いと操作できねーんだ、戸籍ができるまで待つんだな」
クジェレン、というのはアディブ人の携帯端末だ。
皮下に埋め込むインプラントで、この間のオーガンさんが言っていたディオーム.....SNSみたいなのは、このクジェレンの機能の一つだったのだ。
「――――?」
「――――」
「うるせーな」
「まぁまぁ.....」
そういうわけで、僕たちは電車に乗っていた。
アディブ人の移動手段は、自分で翼を獲得して圧縮空気の噴射で飛ぶか、アディブ星で作られた機械に乗って飛んで移動するかだけど、後者は戸籍が無いと使えないクジェレンの機能で操作できるものだ。
「下等種族共が、こんなに上等な乗り物を作れるとはな」
「散々殺し合った末にだろ、俺らも人のことは言えねえけどよ」
アディブ人は文字通り最強種族であるので、かつては銀河に繰り出して侵略を続けて、食糧を得ながら数を増やしたらしい。
でも、黒神騎士団と呼ばれていた漂流者と交戦して、あっと言う間に領土の七割を壊滅させられた過去があるらしい。
「生き残りのジジイ曰く、あいつらは良さげな星を見つけてない状態なら、自分から襲ってこねえからな、地球は大丈夫だろう」
と、昨日荷物を届けたお兄さん.....レジオさんという人が言っていた。
その人からおおまかな歴史を知れた。
「次で降りるぞ」
「あ、はい」
気が付くと、車内は人で埋まっていた。
満員電車というわけじゃないから、皆野次馬だろう。
しばらく揺られて、電車が止まったら降りる。
「赤霧通りですか、都心ですね」
「ここ、そんな名前だったのか?」
「人間からの変異同族だと、両方の言葉が分かって便利だな?」
喋れないんだけどね.....
「喋れないんですよ」
「まあ、地球の言葉は俺たちの声帯じゃ喋れねぇしな」
そうなんだ。
意外な発見をしつつ、僕たちは大通りから外れて路地裏に入る。
「こんなところにあるんですか?」
「配達業務で見ただろ、普段は隠されてる」
「なるほど......」
僕は頷く。
国際問題.......星間問題? にならないよう、配慮がされているって事なのかな。
路地を進むと、行き止まりに突き当たった。
「あれ?」
「こっちだ、ここに入り口がある」
隅に置かれた室外機を、ロームさんがトントンと叩いた。
『今週の合言葉をどうぞ』
「シーム、エック!」
『開門します』
僕はアディブ人の言葉がわかるけれど、合言葉の内容は分からなかった。
後で聞いたことだけど、合言葉はクジェレンの機能で見れるサイトで毎週発表されるらしい。
人間では絶対に間違って入ることもない。
僕は二人に続いて、食堂へと入った。
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