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第七話 宙の仲介人

 北極点に隕石が落下した。

 残り少なかった氷の五分の一を蒸発させたそれは、北極圏の国家ホワイト・ベアーズによって成分調査された。

 大部分は鉄だったが、中心に生体反応があるという結果だった。

 鉄に包まれた微生物はこの地球以外に、生物が棲む惑星の存在を示していた


『宇宙へいくぞ』


 九鬼は提案した。

 シュウは飲み水を口に含み、それから噴き出した。


「げほっげほげほ」

『大丈夫か』


 しばらく咳き込んで、落ち着いてから、シュウは言った。


「世界警察の艦島を崩壊させたお尋ね者になったのに!?」

『だからこそだ。宇宙そらを見てみたい』

「空なんていつでも甲板のカメラから見られるだろ」


 シュウが呆れた声で言った。



 ヒマラヤ宇宙センターはGPS衛星を管理する世界唯一の宇宙開発企業である。GPSプロッターも自社で開発し各国家の船舶に提供している。それゆえに、政治的にはどこにも属さない絶対的な立場を取っている。

 事前に連絡を取り、広報部長にお目通りが叶った。

 俺は素直な要望を出す。


「宇宙に行きたい」

「だめです」


 愛想笑いで断られた。


「ウルフ・ムーン規模の艦島一隻をまるごととなると、国家予算百年分を優に上回ります」


 広報部長は笑顔を貼りつけたまま、そう続けた。


「仕方ないな、特別だぞ」


 腹部の収納から、スクワールで作った干物を取り出した。


「いりません」



 俺は頭をひねりながらシュウと施設内を観光していた。


「袖の下が効かぬとは」

「なんで効くと思ったの」

「織田には大ウケだったのだが……魚が嫌いなのか」

「宇宙へ行きたいのですか?」


 ふと、背後に気配を感じる。敵意はない。

 素早く振り返ると背の高い仏頂面の男が立っていた。


「私はジェームス・ベルヌです。宇宙へ行きたいのですか、あなた方は」

「なんだ、資金でもくれるのか」


 俺はたずねた。


「建て替えることはできませんが、仕事を紹介することはできます」


 ベルヌは優雅に右手を上げて、展示されたロケットを指した。


「ロケット開発にも携われます」


 はっきり言って、怪しい。

 しかしお尋ね者となり世界から孤立中のウルフ・ムーンである。背に腹は代えられない。


「なるほど、受けよう」

「艦長は僕なんだけど」


 シュウが間に入った。


「お返事は?」


 ベルヌが落ちくぼんだ目で見降ろす。


「受けます」


 シュウは頷いた。



 俺たちに与えられた仕事はレアメタルの採集だった。

 海底火山が連なる作業起点に到着し、無人潜水艇を発進させる。


「たしかこのあたりだと思うんだけど……」

「まどろっこしいな、もっと早く動けないのか?」


 シュウの操作を見ていたリ・チョウが文句を垂れた。


「無理だよ。水圧もあるし、なにより海底はなにがあるかわからないからね」


 赤外線カメラから見える海底には高層建築物がごろごろと倒れており、用途の分からない尖塔もある。ぶつかれば二十センチしかない潜水艇は故障しかねない。

 ふと、カメラの前を黒い影が横切った。透明な頭を持つ魚だった。


「ぐえー、海底ってグロいな」


 アイが舌を出す。


『そうか、俺は好きだがな』


 俺はモニターを見つめる。静かな水底で、先鋭化された命が躍動しているのだ。見ていて飽きない。


「あった。この海溝だ」


 白い塗料が縞状に塗られている岩場に、亀裂が走っている。その奥に金属反応がある。


「試しに掘ってみよう。どのくらいの鉱脈か調べたい」


 潜水艇が掘削機を構える。


「やはりまどろっこしい。さっさと終わらせるぞ」

「あっ、こら」


 リ・チョウが操縦桿を奪った。乱暴に動かして掘削機を亀裂にぶつける。

 泡が昇る。


「あれっ?」


 泡は徐々に大きくなり、潜水艇の表面を滑って、地上へと昇っていく。


「空気、いや、天然ガスかな……?」

『解析してみたが、窒素と酸素、二酸化炭素が主成分だ』

「なんでそんなものが……」


 言っている間に亀裂はどんどん掘削されていく。

 貫通した。


 赤外線カメラを通常モードに切り替えた。

 そこに映っているのは、古風な中国様式の屋敷と、煌びやかな着物に身を包んだ女だった。


「ようこそ客人まろうどよ」


 女は言った。



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