第十九話 襲撃
シュウとアイ、そしてリ・チョウをモデルとしたAI艦は実装実験中だ。
こうしている間にも彼らは幾度も開発され、失敗されているのだろうが、深く考えるのはやめようと思う。
意志を伝えるのだというのなら、あの石が発した言葉がシュウたちのものなら、それに答えてやりたい。
「九鬼さん、レーダーを見てください」
艦隊がウルフ・ムーンに迫っていた。
「輝元、説明してもらおうか」
俺は通信を打つ。
返事は簡素なものだった。
『能島が離反した。わしは関与しとらん』
通信を切られる。
俺は息を吐く。
「野球では気が済まなんだか」
「九鬼さん」
セブンスに俺は向き直る。
「戦だ」
能島の乗る高速機動艦フライング・フィッシュは外装表面の量子化で高速機動を実現している。同じ機能を持った艦が五隻。小規模のように見えるが、使用できる兵器がバルーンしかないウルフ・ムーンたちには十分な脅威だった。
「バルーンを防御型に展開してください」
「うむ」
セブンスが指示を出す。俺はバルーンを艦の周囲に配置する。同盟艦も防御型の布陣で先行する。
しかしフライング・フィッシュはウルフ・ムーンの下方へ向かってきた。
傍受した通信から能島が吠えた。
『底ががら空きだ、鉄船野郎が!』
砲身がこちらへ向く。
「……っ!」
セブンスは咄嗟に艦体を下ろした。
ウルフ・ムーンの船底とフライング・フィッシュの甲板が激突する。砲塔がへしゃげてレーザーが逸れた。
『てめぇ! ……っ、なんだこの歌は……っ』
重なりあった艦体へ、もう一隻の艦がぶつかった。
実装実験中のアイの――正確にはアイをモデルとした制御システムのAI艦だった。
『宇宙に平和があらんことを!』
シュウとリ・チョウのAI艦も激突した。
「シュウ、アイ! 離れろ!」
俺は二隻に信号を送る。
「我ーッ!」
リ・チョウも自分自身のAI艦に対して叫んでいた。
『やめろ、やめろ、歌うな、俺の目の中で歌うんじゃねえ……!』
能島の声が制御室に響く。
「バルーン発射!」
周囲に待機していた同盟艦がバルーンを発射した。
潰れたフライング・フィッシュがバルーンに包まれる。そして、分解した。
『覚えてろよ……!』
ナノマシンによって分解されたフライング・フィッシュは、能島を乗せたまま地球へと落ちていった。
傷ついたAI艦たちを修復しながら、キングは言った。
『新たな艦島の名前は決まりましたか』
「ああ、聴いてくれ」
俺は書にしたためた三隻の名前を読み上げる。
「アイ・ムーン」
アイのAI艦を呼ぶ。
「タイガー・ムーン」
リ・チョウのAI艦を呼ぶ。
「そして、フリー・ムーン」
シュウのAI艦を呼ぶ。
増加した民を移住させ、艦島の船員とする。その中から艦長を選任する。
『アイ・ムーンの新艦長ウミノです。よろしくお願いします』
誠実そうな女性が敬礼した。
『タイガー・ムーンの新艦長エンだ。これからもよろしく頼む』
好漢然とした男が腕組みしたまま答えた。
『フリー・ムーンの新艦長、ガーディアン。ではこれで』
少年がそっぽを向いたまま立ち去った。
「俺と共に来てくれるか」
通信を打った。それぞれの艦のAIから答えが返ってくる。
『いいぞ!』
『任された』
『行こう、九鬼』
リ・チョウが俺を見ている。そう、ここにいるリ・チョウとAI艦が同じではないように、彼らは死んだシュウとアイではない。
『わかっている』
俺は呟いた。自分に言い聞かせるように。
「九鬼さん、提案があります」
セブンスが俺に向き直る。
「ウルフ・ムーンを捨てましょう」