第十三話 歌う隕鉄
俺たちは火星周辺に到着した。
すでに開発が進み、打ち捨てられた星だ。周囲を人工衛星やデブリが浮いている。
俺は端末に移って、燃料ホースを手に火星の油田基地に降り立った。
「補給を始める」
宣言してホースを繋ぐ。ポンプが燃料を汲み始める。
ふと、手のひら大の隕鉄が俺の周囲を回っていることに気付いた。
『鉄が主成分、いや、機構があります。現代地球の技術じゃないけど、人工的な臭いがする』
制御室のセブンスが早口になった。
『無人の宇宙船です』
隕鉄が輝く。
「……、……、……」
『なにか信号を発していますね。持ち替えってみてくれますか』
「わかった」
補給も終わったので、俺は隕鉄を持ち帰った。
二重のハッチを経て制御室へ入ると、鉢植えの青い石が光っていた。
共鳴するように無人宇宙船が輝く。
「あ、あー、テスト、テスト」
それは、シュウの声だった。
「やあ、親愛なる宇宙の人。あなたたちに贈り物がある」
無人宇宙船は輝きながら、言葉を紡ぐ。
どのような機構かはわからないが、石に記録された声を使って、翻訳しているのだ。
「僕たちは、この宇宙に僕たち以外の知的生命体がいることを願い、この船を飛ばした。あなた方に危機が迫っている時にこれが役に立つことを祈って……」
「やめてくれ」
俺の言葉を受けて、宇宙船が輝く。
「なにを?」
「その声で、話さないでくれ」
俺は懇願する。
赤い石と黄色い石が順番に光り、リ・チョウの声が宇宙船から発せられた。
「これでよいか」
「まあ、マシか」
俺は息をついた。
「我らはこの贈り物をお前たちに託す。どうか平和のために役立ててくれ」
「役立ててくれと言われても何ができる」
宇宙船から、歌が流れ始めた。
リ・チョウの声で、シュウの声で、アイの声で、歌が響く。
宇宙に平和があらんことを。歌詞はそれだけだ。
悲しくも美しいメロディだった。
「ラブ、アンド、ピース」
歌い終わると、リ・チョウの声でそう締めくくった。
「二度と聴かぬ」
俺は言った。
「こういう地球外からの贈り物が宇宙には漂ってるんでしょうね」
セブンスが興奮した様子で言う。こういうものが好きらしい。
「案外、地球から放り出したものかも知れんがな」
俺は機嫌の悪さを隠さないまま言った。
「次の目的地はどこですか」
「木星だ。液体金属水素を採取する」
俺は巨大な歳星に印を置く。
「木星は電波バーストもあって危険です。何に使うんですか?」
「この艦の予備燃料。それと、武器の製造だな」
輝元に対抗するためには必要だった。
セブンスの暗い表情を見て、俺は頭を振る。
「殺めぬ戦いは諦めておらん。信じてくれ」
「わかりました」
ウルフ・ムーンは宇宙空間を進む。その先に希望があることを信じて。