第十二話 宇宙の端を見た
ロケットが切り離される。
大気圏外を脱するための速度はGとなってウルフ・ムーンを苛む。
やがて速度が緩む。重力を感じなくなって、船体が浮き上がる。
『チェック、システムオールグリーン。バイタルオールグリーン』
俺は船と船員の無事を確認した。
『もう立ち上がっていいぞ。できるならな』
セブンスが安全ベルトをはずした。
「おっとと」
無重力に慣れず、手足を動かして慣性を発生させる。
リ・チョウはガチガチに緊張していて動けていない。
「もう宇宙なんですね」
「う、動いてもいいのか」
「ぶつかっても穴が開くわけじゃないですから、大丈夫ですよ」
セブンスが促す。
俺はいくつもある目のうち、船外の目を開いた。
『これが地球か』
青い、どこまでも青い球体が闇の中に浮かんでいる。
「青いですね」
セブンスが同じ感想を呟く。
「ま、まだ見えておらん。本当に動いてもいいのか」
リ・チョウは安全ベルトは外したが席から動けていない。
俺は甲板に用意していた端末に、命綱を接続する。
宇宙は闇だった。遠くに燃え盛る太陽が見える。太陽フレアには気を付けるように言われているが、避けられるようなものなのかはわからない。
地球の周りには人工衛星やデブリが浮いている。
その時、ヒマラヤ宇宙センターでロケットの光が輝いたのを俺は見た。地球から飛び立つ船はひとつではなかったのだ。
通信が入った。
『達者か、九鬼』
「輝元⋯⋯!」
迫ってきているのは毛利の艦だった。俺はウルフ・ムーンへ戻ろうとする。
『宇宙領域の資源を手に入れようとしているな、お前にしては考えたほうだ』
「そういう貴様もか。先は越されん」
毛利の艦の舳先が光る。
『気遣わんでもいい。ここで屑鉄になるのだからな』
光が撃ち抜いたのは俺に繋がっていた命綱だった。断面を溶かしながら千切れる。
俺はハッチに取り付こうとするが、光の帯がそれを阻む。
「輝元!」
『さらばだ、九鬼』
通信の声が笑っている。
「させるものか!」
俺は端末の自爆スイッチを押した。
細かい破片ではなく、手足が、外装が、塊となって飛んでいく。ウルフ・ムーンにぶつかる。
爆発の慣性でウルフ・ムーンと毛利の艦は遠く離れていく。
端末に内蔵された目で俺は宇宙の端を見た。
制御室。
「そんな、九鬼さんが」
セブンスが愕然と肩を落としている。
「うおおおっ九鬼っ、我らのために犠牲になるとは⋯⋯!」
リ・チョウが泣いている。
『犠牲にはなっとらんぞ』
俺はスピーカーから声を発する。
「うおあっ」
「九鬼さん!」
『意識を分ける訓練をしておいてよかった。貴様ら、勝手に殺すな』
整備ポッドの中で予備の端末が組み上がっていく。
『輝元に目をつけられている。急ぐ必要があるな』
宇宙センターから譲り受けた宇宙図を画面上に開く。
『まず目指すのは火星だ』
赤い災星に印を置く。