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ラーメン大好きっ子と呼ばれた男

作者: げんのすけ

仕事帰り、適当に入ったラーメン屋。腹が減っていたから、なんでもよかった。


ふと、周りを見渡すと、スマホでラーメンの写真を撮る客がちらほらいる。最近はこういうのが流行っているのか?


試しに俺も撮ってみた。特にこだわりはない。湯気が立ちのぼるスープ、チャーシュー、麺。適当にシャッターを押し、SNSに投稿する。


「特製ラーメン。普通にうまい」

(#ラーメン #適当に入った店 #仕事終わりの一杯)


すると、思った以上に「いいね」がついた。


「お、めっちゃうまそう!」

「この店行ってみたい!」

「食レポもっとお願いします!」


俺は少し驚いた。別にラーメンにこだわりがあるわけじゃない。でも、こうやって「いいね」がつくと気分がいい。


試しに次の日も別の店でラーメンを食い、また投稿した。


また「いいね」がついた。コメントで「ラーメン詳しいですね!」と言われ、なんだか気分が良くなる。


「あれ? これ、万バズ狙えるんじゃね?」


俺は本格的にSNSを研究し、バズるための投稿を考えるようになった。ラーメンに詳しくなるつもりはない。ただ、「いいね」がつくなら、楽なもんだ。


そんなある日、ラーメン屋に入ると、隣の席の客が話しているのが耳に入った。


「あいつ、また来てたよ」

「ほんと、ラーメン好きだよな」

「どこの店にもいるよな、ラーメン詳しいやつ」


最初はどうでもいい世間話だと思っていた。でも、どのラーメン屋でも、必ず「ラーメン大好きっ子」というワードが出るのだ。


妙に気になる。


「ラーメン大好きっ子?」


聞き覚えのない単語だった。


さらに数日後、SNSでこんな投稿を見つけた。


「ラーメン大好きっ子って知ってる?」

「あちこちのラーメン屋に出没してるらしい」

「写真ないの? マジで都市伝説じゃん」


これだ――!!


「こいつを追えば、万バズ間違いなしじゃね?」


俺は興奮した。ラーメンの投稿より、こういう「都市伝説系ネタ」の方がウケる。今や「ラーメン大好きっ子」はネットの噂になりつつある。だが、誰も正体を知らない。


俺がそれを暴けば、**「ラーメン界のミステリーに迫る男」**としてバズれる――!


そう思った俺は、「ラーメン大好きっ子」の正体を追い始めた。


調査を進めるうちに、俺は気づいた。「ラーメン大好きっ子」は、ただのラーメン好きではない。どの店にも現れ、スープの違いや麺の食感について語り、SNSに投稿している――。


しかし、いくら探しても顔写真が出てこない。誰も「ラーメン大好きっ子」を目撃したことがないという。


「……こいつ、マジで何者なんだ?」


ある日、いつものラーメン屋に入った。カウンターに座り、注文を待つ。


店主が俺の顔を見るなり、軽く笑って言った。


「お、ラーメン大好きっ子、今日もか?」


俺は思わず固まった。


「……え?」


すると、隣の席の客が箸を止めた。


「え? 大将、この人のこと、そう呼ぶんですか?」


店主は湯切りをしながら、何気なく言う。


「まあ、よく来るし、ラーメンの話ばっかりしてるしな」


俺の頭の中で、すべてがつながる。


・SNSにラーメンを投稿し続けたこと。

・投稿した店に実際に足を運び、「あの店のほうがスープが濃いな」とか適当に言ったこと。

・フォロワーが勝手に「ラーメン大好きっ子」というあだ名を広めていたこと。


そして――


俺自身が、「ラーメン大好きっ子」だったこと。


「お前がラーメン大好きっ子なんかい!!!」


ラーメンの湯気が立ちのぼるカウンターで、俺は呆然とするしかなかった。


(了)



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