## 第五話:中継点にて
# 紫色のフラグメンツ
## 第五話:中継点にて
中継点の建物は、幾重もの磁性砂の層に守られるように佇んでいた。風化した外壁には紫がかった砂が幾筋もの模様を描き、まるで年輪のように時の流れを刻んでいる。変換機の低い唸りに混ざって、砂嵐がガラスを叩く音が響いていた。
共有スペースの壁には、使い込まれた結晶メモリの収納ラックが並ぶ。それぞれが微かに光を放ち、パターンデータの品質を主張するように明滅している。良質なデータは深い紫色を帯び、粗いデータは淡く揺らめいていた。
変換機からコーヒーの香りが立ち始めると、何人かの輸送屋が顔を上げた。
「このパターン、使用コストどれくらいなの?」長距離輸送のベテラン、サムが近寄ってきた。彼の着古した作業服のポケットからは、幾つもの結晶メモリが覗いている。「香りからして、相当なデータ量かと思ったんだが」
「意外と軽いのよ」リンは変換機のホログラム表示を指さした。純度レベルと使用コストを示す数値が、紫色の光となって空中に浮かんでいる。「見て、標準的なパターンの3分の1程度のデータ量。それなのにこの味わい」
「へぇ」白髪のマリアが覗き込む。彼女の手には、長年の輸送作業で摩耗した結晶メモリが握られていた。「こんな最適化が可能なんだ。普通、この品質なら完全データが必要だって言われてるのに」
ホログラムテーブルの周りで地図データを更新していた若手の輸送屋たちも、興味をひかれたように集まってきた。彼らの作業着には、まだ砂嵐の跡が生々しく残っている。
「これ、最新の圧縮技術?」茶色い巻き毛の青年が質問する。彼のゴーグルには、まだ紫の砂が付着していた。
「いいえ、まったく違うアプローチよ」リンは変換機の詳細表示を切り替える。「見て、データの構造自体が特殊なの。無駄を省きながら、本質的な要素だけを抽出している」
「みんなには悪いんだけど」リンは申し訳なさそうに笑う。「今日は特別ね。このパターン、普段なら高くて配れないわ。変換コストは低いけど、この純度のデータを複製するだけでも...」
「いやいや」若手の輸送屋が声を上げる。彼の背中には新品の結晶メモリホルダーが光っている。「むしろ勉強になる。データ量と品質のバランス、こんな最適化手法があるなんて。これ、誰が設計したの?」
カウンター越しに、中継点の管理人も興味深そうに耳を傾けている。彼女の制服の胸には、様々な結晶メモリが整然と並んでいた。
「私も驚いたのよ」リンはホワイト老人の話を始める。「このパターンを作った人、随分と工夫を重ねたみたい。完全データに頼らない、職人的なアプローチっていうか...」
共有スペースの古い照明が、それぞれのカップの中で揺らめく紫色の液体を優しく照らしていた。変換機の表示パネルには、依然として驚くほど低いコスト数値が点滅している。
外では砂嵐が強さを増していたが、誰も気にする様子はない。長年の輸送作業で鍛えられた手が、温かなカップを大切そうに包み込んでいく。