## 第四話:砂の航路
# 紫色のフラグメンツ
## 第四話:砂の航路
「この磁性砂、またパターンが変わってきたわね」
ミッドナイトの声に、リンは運転席からフロントガラス越しの風景を見つめた。紫がかった砂嵐は、ゆっくりと流れるように移動している。
「昔の地図データと照合してみましょうか?」リンはホログラム投影を切り替える。「ウェストサイドまでの一般的なルートは...」
言葉が途切れた。目の前の地形と、ホログラムの古い地図データは大きく異なっている。磁性砂は、ゆっくりと確実に世界の形を変えていた。
「地図の更新料が高騰してるのよね」ミッドナイトがため息をつく。「各コミューンが独自に作ったデータを持ち寄って、やっと繋ぎ合わせてる状態だもの」
バンは緩やかな傾斜を登っていく。かつてここは平野だったはずだ。今では紫色の砂丘が、波のように連なっている。
「そういえば」ミッドナイトが結晶メモリを光にかざしながら言う。「このコーヒーのパターンデータ、面白い構造してるわ。ホワイトさんの言う通り、データ量は少ないんだけど...」
「ええ」リンは砂嵐の動きを確認しながら応じた。「味わいがありましたよね。完全データじゃないのに」
「単なる味の再現じゃないのよ」ミッドナイトの瞳が光る。「香りと温度のバランス、そして時間経過による味の変化まで、細かく計算されてる。でも使うデータ量は最小限」
遠くに中継点の影が見えてきた。砂嵐の影響で、建物の上部はかすんで見える。定期的なメンテナンスが行き届いているのか、窓からは温かな光が漏れていた。
「少し休憩していきましょうか」リンは古いデータの入った結晶メモリを取り出しながら言う。「ここ最近、データの整理もしてないし」
「そうね」ミッドナイトが心配そうに砂嵐を見つめる。「この天候なら、他の輸送屋も寄ってるはずよ。最近の砂の動きも確認できるわ」
「あと、ホワイトさんのコーヒーも」リンは微笑んだ。「みんなに味わってもらいましょう」
バンは紫色の砂嵐の中を、中継点へと向かっていく。人と人とが出会い、情報が交換され、時には思い出が語られる場所。それが中継点の本当の役割なのかもしれない。