## 第二話:光の技術者
# 紫色のフラグメンツ
## 第二話:光の技術者
シェルターの内部は、リンの想像以上に整然としていた。古い軍用コンテナを改造した居住空間は、壁一面がホログラフィック・ディスプレイで覆われ、床下には自己修復型の配管システムが張り巡らされている。
「失礼します」リンは防護服のヘルメットを外しながら言った。「HENコアの交換、ご案内いただけますか?」
ホワイト老人はゆっくりと頷き、奥の機械室への扉を開けた。「このシェルターのHENコアはね、少し特殊なんだ」
機械室に入ると、リンは思わず足を止めた。通常のHENコアは小型冷蔵庫程度の大きさだが、目の前にあるのは部屋の半分を占める巨大な装置だった。その中心には、紫色の光を放つ円筒型の構造体が据え付けられている。
「これは...」リンは言葉を失った。
「私の最後の仕事さ」老人は懐かしそうに装置を見つめる。「量子もつれを利用した大規模エネルギー変換システム。磁性砂の異変が起きる前に開発していたものだよ」
バンの中で待機していたミッドナイトの声が、リンの通信機に響く。「この装置、通常のHENコアの10倍以上のエネルギー効率を持っているわ。でも同時に...異常な量の量子ノイズも発生させているみたい」
老人は苦笑した。「そう、その通りだ。この装置は高効率だが、同時に不安定でもある。だから予備システムが絶対に必要なんだ」
リンは持参した予備ユニットを装置の横に設置し始めた。標準的なHENコアは、誰でも簡単に交換できるよう設計されている。しかし、目の前の装置は違った。複雑な配線と、独自の制御システム。その構造は、明らかに特注品だった。
「この技術」リンは作業の手を止めずに尋ねた。「もしかして、現在の中継塔システムにも使われているんですか?」
「鋭いね」老人は装置のコントロールパネルに向かい、数値を確認し始める。「中継塔の基本設計は、確かに私たちのチームが手がけたものだ。ただし、現在のものとは少し違う。私たちが目指していたのは...」
老人の言葉が途切れた。突如、シェルター全体が振動し、警報が鳴り響く。
「砂嵐の強度が急上昇」ミッドナイトの声が緊張を帯びる。「この一帯の中継塔が、次々とオフラインになっていくわ」
リンは急いで作業を続けた。予備ユニットの接続部が、紫色の光を放ち始める。「ホワイトさん、制御システムの調整を」
老人の指が素早くコントロールパネルを操作する。その動きは、年齢を感じさせない正確さだった。「私たちが開発していた技術はね、単なる通信システムじゃなかったんだ。私たちは...」
再び言葉が途切れる。しかし今度は警報のせいではなかった。老人は何か言いかけて、意図的に口を閉ざした。
「予備システム、オンライン」ミッドナイトが告げる。「エネルギー出力、安定しています」
部屋の振動が収まっていく。リンは老人の表情を観察した。そこには安堵の色と共に、どこか深い懸念の影が見えた。
「ありがとう」老人はようやく口を開く。「これで当分は大丈夫だ。それより...君に見せたいものがある」
シェルターの外では、砂嵐が更に強さを増していた。