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 二日後、合鍵を作ってから、ユズ先輩に屋上の鍵を返した。

 その時に「おせえんだよ」と文句を言われたので、ちょうどいいやと思い「郷聖と別れてください」と頼んだ。

 ユズ先輩は驚いて固まってたので、「まあだめだって言われても、聖が先輩をふりますけど」と言っておいた。


 ちょっとあたし調子に乗ってるかなと思ったけど、同じ日の放課後、聖がユズ先輩に別れますと言いに行った。

 それを聖があたしにメッセージで教えてくれて、文面の最後に「私は七人中七位だったらしいから、わりとすんなりだった」と書いてあったので、ユズ先輩をひっぱたいてやろうかと思ったところで、「話がついたんだから怒ったらだめだよ」と聖から追加のメッセージが届いた。こいつやるな。


 金曜の放課後、あたしは聖を誘って屋上に行った。

 二人で布を張って日よけを作る。今日は、聖も日焼け止めを塗ってるのを確認した。

 まだ日は高くて、夕暮れの気配はほんのちょっと。やかましい部活の連中とセミの声がそこらじゅうで響いてる。

 空を見上げても、あの日の夜みたいな奇妙な感覚はなかった。頭の上はただの空。

 明るいうちの学校は、ただの学校。ここもただの屋上。

 聖も、いつもと変わらない様子だった。


「明日、私のお母さん、昼間に赤坂さんの家に行くから。私も一緒に行くって言ったんだけど、一緒はどうしても嫌だって」

「それは勘弁してやれよ。娘に見られながらあたしに『襲いかかってすみません』って言えないだろ……」


 そういえば、晴れてつき合い出したあたしと聖だけど、なかなか二人でいちゃつける場所がない。

 あたしの家ではその気になれない。なんか親に悪い気がするし。聖の家も同じ。親と仲がいいの悪いのとは、これはまた別の話だ。

 また夜にこの屋上に忍び込むのもいいけど、ここでできることだってそんなにない。

 思った以上に、結構不自由なものなんだ、あたしたちって。あの夜は世界中に自分が広がったような気がしたのにな。

 親に面倒見てもらってるうちは、こんなもんってことか。


「どうかした? やっぱり嫌?」

「ああ、全然違うこと考えてた。卒業したら一人暮らししようかな、とか」


「本当に全然違うね……」


 苦笑してる聖を見た。

 かわいいと思う。

 好きだと思う。

 でも、あたしなんかが、聖を大切にし続けられるのかっていうと、分からない。

 気はそこそこ強いつもりだけど、かっとなりやすい分不安定で、不完全で、たまに病人みたいに弱っちくて、すぐ短気を起こしそうだし、もろいところもたぶん多い。


「それでも、聖に優しくできればそれでいいのか……?」

「なにが? おーい?」


 童話に出てくるうさぎみたいに、中身まで砂糖みたいに甘く優しくはなれない。

 せいぜい上っ面だけの砂糖がけが精一杯。その下には、生ぬるくて苦い生身がある。

 そんな自分だからなにを手に入れても心細くてはかない。

 そんなこんなのどれもが、たぶん聖も同じだ。

 そんな二人が好き合ってる。


「お前の母親、殴ればよかったって思ったことあるけど、やっぱり殴らなくてよかった」

「……そう? 大人だって、痛い目見ないと分からないことだってあると思うけど」


「凄いこと言うなお前。……少なくとも、あたしは人を殴る人間なんですって負い目持たずに、お前といられるよ」

「赤坂さん気が強そうだけど、人を殴ったことはないんだね。いいと思うよ」


 まあ、ユズ先輩に平手打ちしたことはあるけど、あれは明確に向こうが悪いので気にしないでおこう。


 屋上に風が吹いた。

 風にもたまに色がある。夏の風は白い。

 これから期末試験だ。その後は夏休み。二学期が来て、また授業とテスト。

 あたしたちは学生。


「聖があたしを好きでよかった。生きるのって最高」

「……一度、赤坂さんの話をじっくり聞いてみたいと思うよ。その唐突な言葉にたどり着くまで、どんな思考を経由しているのか」


 ああ、ぜひ聞いてくれ。この世で聞きたいものなんて、誰だって、好きな人の話くらいだろ。


 屋上から見下ろすと、空が、街や丘に切り取られて見える。

 でも本当は無限にでっかい空が、目に見える全部を包んでる。

 自由と不自由。無限と不完全。体。心。好きな人。嫌いなやつ。それから自分。


 そんなくらくらするものの中で、今は好きな人に好きだと言われながら、にやついて風に吹かれてる。



※砂糖のうさぎのおとぎ話は作中の創作であり、実在しません。

仮に似たようなお話があったとしても偶然であり、筆者に引用の意図はありません。



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