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 『財宝わきいずる泉』のある宇宙を食性宇宙と呼ぶ。その隣の宇宙は滅びかかっていた。その宇宙にやってきた宇宙船ドーピング・ウーは宇宙の死に襲われることとなった。

 宇宙船の窓から見える光景はそれは無惨なものだった。船外を飛びかう生物が塵になって死んでいく。星が砕け、消し飛んでいった。銀河が巨大な触手に吸いこまれて消えていった。

 いったい何が起きたのだ。突然、迫り狂う滅びに族長カノウは偵察艇の発進を指示した。

「たいへんだ。ロボックが粉々になっていくぞ」

 宇宙船ドーピング・ウーの船内にも死者が出始めた。ロボックの服と体が同時に拡散し、黒い粉になった。黒い粉がさらさらと重力に従って落下し、床に落ちた。ロボックは死んだ。ロボックの妻と子供たちが一呼吸黙祷を捧げた。

 宇宙が死んでいくのに、みんな驚いていた。宇宙の死はいくつか予想されていた。宇宙がみずからの重力で死ぬビッグクランチ。宇宙が膨張し物質が存在を維持できなくなるビッグリップ。しかし、この宇宙の死はそのどちらともちがう。宇宙が、何か恐ろしく禍々しい何かに食われているのだ。

「これは、外なるものに襲われているのではないか」

 族長のカノウがいった。

「あの禍々しき名状しがたい外なるものにですか」

「そうだ。我々はついに襲われたのかもしれんぞ」

 真っ黒な暗黒の雲とそこからのびる触手が、貪欲に星々を食らう。巨大すぎる死と滅亡が襲ってくる。あまりの巨大さに感覚が麻痺して、恐怖すら働かない。その光景を見ていた。しかし、その損失を理解し咀嚼したものは、あまりの絶望に悲鳴をあげた。

「あああ」

 ひとつ悲鳴があがると、多くの者が緊張感を高め、目をぎらぎらさせ始めた。

「慌てるな。我々の目的は『財宝わきいずる泉』だ。そこにたどりつくためには、これくらいの困難をのりこえなければならんぞ」

 族長カノウの声を聞き、人々は落ち着きをとり戻した。

 動かないことが仕事、任務である。今はただ、偵察艇の帰還を待っているしかないのだ。


 そして、偵察艇が帰ってきた。偵察艇は現地生命体との交信に成功し帰ってきた。それによると、この宇宙の本質真理は「我々は隣の宇宙に食われている」というものであるらしかった。族長カノウは、あまりの事態の異常さになすすべがなかった。

 ザリの短刀を弾き落としたジャラテクがいった。

「ひょっとしたら、おれたちは隣の宇宙にワープしたかもしれないぞ。まずいな」

「何をいっているの。何が原因でそんなことが」

「おれのリトルリップ発生器が原因かもしれない」だ

「え、それが? わたしのせいで。あなたがそんなすごい道具をもってたなんて。あなた、まさか、そんなはずない。あなたはただの雑魚のはずだもの。宇宙を動かす力などないはずよ」

「ふん」

 ジャラテクは黙った。おれは神殺しを目指しているのだぞ。

「もし、もし、ここがわたしたちの宇宙でなく、隣の宇宙だとしたらどうなるの」

「この宇宙にも、この宇宙をつくった神がいるはずだ。隣の宇宙に食われるくらいなら、この宇宙の神は力の弱い神の資格のない邪神だったんだ。神の資格もなく、神の椅子に座ったんだ」

「ねえ、ひょっとして、この宇宙を食べているのって、わたしたちの宇宙なんじゃないかなあ」

「偵察艇の話によると、この宇宙を食べている宇宙を食性宇宙と呼ぶらしいよ」

「食べられたこの宇宙はどうなるの? ということは、わかった。隣の宇宙を食べて、その良質なものをとりこむのが、わたしたちの宇宙の『財宝わきいずる泉』なのよ」


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