表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/10

 第二創世暦二〇〇九年四月五日、ドーピング・ウーの村は一族全員で、伝説の秘宝『財宝わきいずる泉』を手に入れる旅に出ることにした。

 とてつもない富と金と財宝と、魔具に神具に秘宝を束ねた歌えや踊れの富貴を集めた『財宝わきいずる泉』があるという。それはどんなものでも使えば、天変地異に奇跡を起こし、神々にも匹敵する力を得るという。『財宝わきいずる泉』に住む者は宇宙を支配し、他の誰よりも幸せに生きるという。そんな宝島の伝説を人々は流布し、宇宙の片隅にある『財宝わきいずる泉』にたくさん人は集まりつづけた。

 ドーピング・ウーの村も例外ではなく、宝島『財宝わきいずる泉』に行こうと人々が言い出した。なんと、村人全員が住みなれた星を捨て『財宝わきいずる泉』に旅に出ることを決断したのだった。村はお祭り騒ぎだった。村人総出で宝島騒ぎを決定したその時に、たった一人、はぐれ者の少年がいた。名をジャラテクといった。

 ジャラテクは村では目立たない子供だったが、一人秘かに神殺しを夢見て、作戦を練っていた。だから、ジャラテクにとって『財宝わきいずる泉』を目指すのは神の意思に従う神の手下であり、自分で自分の旗を掲げるものではなかった。

「みんなで『財宝わきいずる泉』を探しに行くぞ」

 若き族長カノウがいった。

「おう」

 みんなの声が一致した。ただ一人、ジャラテクだけはみんなにのり遅れていた。

「おれには別の目的があるんだ」

 そんなズレたことをいっていた。ジャラテクだけ仲間外れだった。

 ドーピング・ウーの村は全財産をはたいて宇宙船ドーピング・ウーを建造した。そして、この宇宙のどこかにあるという『財宝わきいずる泉』を探す旅に出た。

「旅はきっと困難だぞ」

「おう」

「どんな困難にも負けないぞ」

「おう」

「絶対に『財宝わきいずる泉』にたどりつくぞ」

「おう」

「いいか、ついてこれないやつは見捨てていくぞ」

「おう」

「立ちふさがる敵は全部やっつけていくぞ」

「おう」

「よし、みんな手を組め」

 みんな手を組んだ。

「ドーピング・ウーが『財宝わきいずる泉』を手に入れるぞ。いちばんでかい声出してけ」

「ドーピング・ウーが『財宝わきいずる泉』を手に入れるぞ」

 そして、ドーピング・ウーの村は故郷を捨てて、どこかにあるともしれぬ『財宝わきいずる泉』を目指して旅に出た。


 旅は激動を極めた。見知らぬ星の警備艇に通過禁止といわれた時、戦争をして押し通ったこともあった。『財宝わきいずる泉』の情報を手に入れるために、ドーピング・ウーの村人は歴戦の傭兵になり、情報局員になっていった。宇宙船ドーピング・ウーを止められるものは何もなかった。

 そんな中、ドーピング・ウーの村人ジャラテクとザリは暗闇の中で会っていた。

「ジャラテク、あんたはゴミクズだ。わたしは覚えている。あんたは『財宝わきいずる泉』を探してないんだ。あんただけちがうんだ。あんたが任務をサボって、調査の手を抜いているのを知っているのよ。あなたは組織の裏切り者よ」

 ザリにすごまれ、ジャラテクはビビッた。どうする。ジャラテクは考える。

 ジャラテクも『財宝わきいずる泉』には行ってみたい。しかし、そこにたどりついたとしてもとどまりはしないだろう。ジャラテクの目的は神殺し。『財宝わきいずる泉』の力も利用して、神殺しに挑むだけ。そのための作戦も練ってある。ジャラテクにはリトルリップという道具がある。

 リトルリップとは、宇宙が膨張しすぎて物質が消滅する現象ビッグリップの小型発生装置である。これを使えば、神にも傷をつけられると信じていた。もちろん、これを使えば、ザリだって一撃で殺せる。だが、殺してはいけない。ザリのことはよく知っている。真面目で、自分の意思で考え、強い信念を持ち、オシャレにも気を使う女の子だ。かわいい少女なのだ。しかし、今ではすっかり歴戦の猛者となり、一流の女性兵である。

 だが、ザリはジャラテクのことをあまり知らなかった。村人の中の平凡な男の子だと思っていた。

 ザリは思った。こいつが『財宝わきいずる泉』を目指していないなら、殺すと。

「あなたが旅立ちの時に言ったことばを覚えている?」

「覚えていない」

「別の目的があるっていってた」

「そうだけど」

「『財宝わきいずる泉』より凄い目的なの? そうでないなら、村に従って」

 もし、くだらないいいわけをしたら、殺そうと思った。本気だった。こいつは村の仲間といえるのか疑わしい。

「目的の価値は計りづらいからさ。二十年くらい自由時間が欲しいんだ」

 ザリは一瞬迷った。だが、すぐに気づく。こんな答えをするのなら、こいつは将来、みんなの足を引っ張る。ひとつの隙も見せてはいけないドーピング・ウーの船員にあるまじき人物だ。

 殺意。

 こいつは失格だ。こいつに生きる資格はない。

「おまえは村を軽んじすぎた」

 ザリの短刀がジャラテクの腹を狙う。ジャラテクは跳びはねて払う。二刀目をジャラテクはリトルリップで受けた。この時、リトルリップが壊れたのである。

 運が悪かった。リトルリップの故障により、宇宙船ドーピング・ウーは隣の宇宙に宇宙ワープしたのである。この少年少女の決闘が、ドーピング・ウーの旅を絶望的に困難にした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ