7.暗いコックピットで
2024/12/18 現在
文字数が合わないと思ったら1話分飛ばしていました。
割り込みでの更新になります。
コックピットの中は少し肌寒い環境だった。明かりは計器についているスイッチと読書灯のようなライトのみだ。
「空、大丈夫かな…」
自分が心配してどうにかなる問題ではないのはわかっているが心配せずにはいられなかった。先ほどからこれまでは聞こえてこなかった爆音や何かが壊れる音が機体を通じて響いてくる。
そして時折―
ドン!
流れ弾だろうか?機体の近くでも爆発が起きる。
「うお!」
今回は特に近かったのか衝撃も強くバランスを崩す。右手を出し何とか耐えたが何かのスイッチを押してしまっていた。
ウィーンっというような音を立て計器に明かりが灯る。手をどけて確認すると押したボタンは起動スイッチのようだった。
モニターも点灯し画面に文字が表示される。
―システム 起動完了―
―生体認証 確認―
「生体認証確認?」
その後もモニターへ文字が流れるがすべて以上なく流れ、最後に表示されたのは
―システム、戦闘モード起動―
―ソラを頼んだぞ―
その表示は一瞬だったが網膜に焼き付いたように忘れられなかった。
モニターの輝度が上がり周囲の状況を映し出す。周りを見渡すと天井には穴が開き、壁はぼろぼろと崩れていた。
ドンっという音がした、機体を伝わってくる音ではなくロボットの、マキナのマイクが拾った音なのだろう、こもった音ではなく鮮明な音だった。
音の方向を見る、何かが飛んできていた。それは黒色を主体とし、ところどころに青の差し色が入った機体、先ほど一瞬みた空の機体だった。
機体は勢いを落とすことなく飛び壁へ衝突した。
「空!」
思わず叫ぶが機体からは反応はない。
機体が飛んできた方向を見るとそこには先週俺を襲った倍はあるアイヴィーが徐々に近づいてきていた。
「空はあんな化け物と…」
再び空の機体に目を向けるが機体は動く様子がなかった。
俺がどうにかしなければいけない、それはわかるが動かし方もわからない機体だ、何もできない。
何もできないままアイヴィーが徐々に空の機体に近づく、何かしなくてはいけない、少しでもこちらに気をそらさなくては。コックピットのスイッチ類を確認する。
「何か、どうすれば!」
ふと操縦桿のような部品が目に入る。その裏には赤いスイッチ。
「これだ!」
操縦桿を手に取りスイッチを押す、だが攻撃はできずモニターに文字が点灯するだけだった。
―セーフティ―
ただその一言だけが点灯している。
「くそ、どれだ!」
再びスイッチ類に目を落とす。
どれだ!どのスイッチで―
セーフティと書かれているスイッチを見つける。
素早くスイッチを切り替えて再び操縦桿裏のスイッチを押す。
ドドドドドド!!!
右腕に持っている武器から爆発に似た大きな砲撃音がする。しかし照準を定めていなかったため攻撃は当たらなかった。
しかしアイヴィーは動きを止め触手の先端をこちらに向けた。脅威度の優先が変わったのかこちらに向かって近づいてくる。
慌てて照準を定めようとするが操作がわからず打った弾はすべて明後日の方向へ飛んでいく。
「くそ、どうにかしないと、何か方法は!」
そう思ってもうまくいかずアイヴィーは目の前まで迫って来た。
複数に分裂した触手のうちの1本がコックピットに迫る。
終わった、だが先週の死に方よりはいい死に方だろう、誰かを守って死ねるのは。
近づいてきた触手がコックピットに触れようとした。
バシャ!
触手が目の前で爆ぜた、これも先週見た光景だった。視界を動かし空の機体を見る。
かろうじて動いたのであろう右腕には武器が握られていた。砲撃の衝撃に耐えられなかったのか右腕は煙を上げ力を失い地面をたたいた。
アイヴィーは再び脅威度を変えたのか空の機体へ向かっていく。再度攻撃を試みるがこちらには見向きもしない。
「クソ!こっちを見ろ!」
ドン―
鈍い衝撃が機体に走る、アイヴィーの触手のうち1本が機体をはねのけた。
「ウォ…ゲホ…」
シートに体を叩きつけられ、肺が空気を無理やり吐き出す。
「まて、くそ…」
アイヴィーはやはりこちらを向かず空の機体へ近づいていく。
ぶつけた衝撃か呼吸がうまくできず意識が薄れていく。
―空を救いたいか
救いたい、薄れた意識で幻聴に答える。
―なぜ救いたい
大切な人に、似ているから。
―大切な人…ふ、そういうことか、面白い
面白く…ねえよ…空を…救えなきゃ…
―いいだろう、娘を頼んだぞ
そういうと幻聴は消えた。
気づくと俺は何かのスイッチを押していた。
「しまっ!、変なスイッチじゃ…」
恐る恐る手を上げる、そこにはこう書かれていた。
「Ego?」
そうつぶやいたとたん機体が勝手に動き出す。
「こ、こいつ急に!」
操縦桿を握り止めようとするが動きは止まらない。
機体はアイヴィーへ向かって動き出す。空の機体へ触手が伸びているのが見えた。
間に合わない、そう思うと同時に右手に持っていたライフルを機体が勝手に投げた。ライフルは空の機体に迫っていた触手にぶつかる、と同時に爆発、アイヴィーはうめき声のような声を上げ触手をこちらへ伸ばしてきた。
空になった右手で腰に帯刀していた刀を取り迫る触手を切り落とす。それに起こったのか一番太いものを含めたすべての触手でこちらに襲い掛かる。
相変わらず勝手に動く機体は細い触手をはじき本命であるもっとも太い触手へ接近する。
無茶苦茶な機動だがどこか納得できる、親近感のある動きだった。
もっとも太い触手は怒ったようにこちらに突っ込んでくる。こちらもそれに合わせ刀を握り直し敵へ向かう。触手とぶつかる、寸前だった、後方に敵意を感じた、それを感じ取ったのは俺じゃなく機体かもしれない、だが確実にそれは敵意だった。刀を地面に突き刺し無理やりな方向転換、機体は急な動きに耐えられずもとは格納庫であっただろうがれきの山にぶつかる。
次の瞬間、地面に突き刺した刀を、そして動きを変えなかったアイヴィーを光が覆った。
閃光が落ち着くと光が覆った空間はえぐれ、刀、アイヴィーだけでなく地面ごと消えてなくなっていた。
「何が起こった…」
先ほど敵意を感じた方角、そしておそらく光の発射源である方角を見る。
「あれは…マキナ?」
そこにあたのは2足で立ち上がる大型のロボット、マキナだった、がその個体には見覚えがあった。
「あれは先週荒野で燃えていた機体?」
俺が初めてこの世界に来た時、偶然見かけたロボットと同じ破損状態だった。
「あの機体は動けるような状態じゃ―ッ!!」
破損部位が何かに覆われているのが遠目に見えた、あれは…
空の説明を思い出す。
【アイヴィーは殺した人間や兵器に寄生し操作する】
つまりあの機体は…
「アイヴィーに寄生されている!」
ガラガラ―
警戒を強めたとき後方から音がした。
「ナリタさん、無事…ですか…」
後ろを振り向くと何とか動いたのか、左腕でがれきをかき分けコックピットから空が下りてきていた。
「今出てきちゃだめだ!あいつが!」
再び寄生されたマキナに目をやるとそこには何もいなかった。ほかのエリアでも鳴っていたであろう爆発音もいつの間にか消えていた。
「終わった…のか…」
胸をなでおろすとドサッっという音が聞こえた。
音のほうを見ると空が倒れていた。
「空!」
コックピットを飛び出し空のもとへ駆け寄る、だが限界を迎えていたのは空だけではなかった。
「うぅ、くっそぅ…そ…ら…」
空の様態を確認することすらできず、俺は倒れこんでしまった。