4.夢は夢のまま...終わらない!
その後の記憶はあいまいだったがモルモットや猫、犬などとふれあいを楽しんだ、ような気がする。閉店時間が近づいたため会計をすまし店を後にする。お互いに言葉はなかった。その静寂を破り一言つぶやく。
「チラリー美智代」
天田さんは顔を伏せふふっと笑いをこらえていた。
「ふー、今日は付き合ってくれてありがとう」
笑いを耐えきった天田さんが顔を上げお礼を伝える、笑いをこらえたせいか顔が少し赤くなっていた。
「いえいえ、俺も初めてでしたが楽しかったです、あの子にも会えましたし」
「ふ、ちょっと、そ、その話はもうやめて」
半分笑っているがかろうじて耐えている顔は仕事中からは想像ができないほどかわいらしい笑顔だった。
「好きだ…」
「え…?」
「え?」
勝手に口が思っていたことを口にしていた、笑っていた天田さんも驚きからかキョトンとした顔になっている。
もっとも、意図しない発言に自分も彼女と同じ顔をしているだろう。
―告白をしてしまった。
今朝の夢での発言を思い出す。
[玉砕覚悟で告白すればよかったな]
その日のうちにしてしまった、ムードもへったくれもなく。
いやいやいやいや、いまじゃないだろ。
チラリ―美智代などと考えている場合ではない、脳をフルで回転させ言い訳を考える、何か―
「え、えっと私-」
「動物たちかわいかったですね!こういう店始めてきましたけど好きになっちゃいました!」
返答を始めた天田さんを抑え、言い訳を口にする、少し厳しい言い訳な気がするが勢いで押し切るしかない。天田さんの顔を見ると驚いた顔が少し落ち着いていた。
「え、あ、ああ、そういう意味ね」
「すみません、紛らわしい方してしまって」
「だったらまた来ましょう、チラリ―美智代に会いに」
なんとか言い訳はできたようで動物の話へ話を戻すことが出来た。その後も今日触れ合った動物の話をしながら駅へ向かう。
「じゃあ、俺は環状線なんで」
「私は東線だから」
「じゃあまた来週」
「ええ、来週もがんばりましょう」
駅の改札を通り、それぞれの路線へ分かれていく。背を見送り自身も帰宅に向けてコンコースを歩き始める。タッタッタと小走りする音が聞こえる、電光掲示板を見るとあと1分で次の電車が発車するようだ。終電ではないため焦らなくていいかと歩いていると
「成田さん―」
小走りの音が自分の後ろで止まり声を掛けられる、自分の路線方向へ向かっていった天田さんが目の前に―
「-私も好きよ」
笑ったような顔をし、それじゃあとだけ残して再び自身の路線方向へ小走りで戻っていった。
呆然とし立ち尽くす。背中が見えなくなったところで言葉を認識する。
「うそでしょ…」
歩き出すことが出来たのは3度目の発車ベルが鳴ったころだった。
どのように家に帰ったかはあまり覚えていない、手に定期券を握っていたのでいつも通り電車で帰って来たのだろう。
【私も好きよ】
言ってしまった言葉を思い返すだけで鼓動が速くなる。血流が増え、顔が赤くなるのを感じる。手で顔をパタパタと仰ぎ顔を冷やそうとするがあまり効果はない。ベットに体を預け天井を見上げる、妹からもらった室内プラネタリウムが星座を照らしていた。
「思えばあの人のことが気になり始めたのもあなたがきっかけだったわね」
1年前、妹は大きな病気にかかってしまい入退院を繰り返す生活を繰り返していた。少しでも妹との時間を作るため、仕事では休憩をせず働き詰めていた。休日は妹の付き添い、平日は仕事と休む時間をほぼ取っていなかったことが災いし、私は倒れてしまった。そんな時に私助けてくれたのが成田さんだった。
「まさかあの流れで言われるとは思ってはいなかったけど…」
【好きだ】
ベットに顔をうずめ少し足をじたばたする。少し冷静になり足のじたばたを止めるがうずめた顔はまだほてっていた。
ムードもないし唐突な告白、さらに―
「何とかごまかそうと言い訳してたわねあの人…」
何がきっかけかはわからないがポロッと出てしまった告白だったのだろう、動物カフェが好きになったと言い訳をしていた。あの人がごまかそうとするときは少し慌てる癖がある、本人は気が付いていないようだがバレバレだった。
「なんであんな人のこと」
そう思い顔を思い出すとまた顔がほてるのを感じる。顔をうずめ、んー、っとうなりながらまた足をじたばたする。
「だめね」
思考がまともに働かないため一度すっきりしようと立ち上がりお風呂へ向かう。自分の部屋を出たタイミングで「あっ」という声に足を止められる。
「お姉ちゃん!やっぱり帰ってたんだ、さっきからじたばたしてるのかなんかうるさいよ!」
隣の部屋から顔をのぞかせていた妹はもーっといいながら私の立てた騒音へクレームを入れてきた。
「ごめんなさい、マイシスター、お風呂に入ったら静かにするわ」
「ならいいけど、あれ?なんか草みたいなにおいするけどどっか行ってきたの?」
自分では気が付かなかったが服ににおいがついていたのだろうか、動物のおやつとして挙げた乾草のにおいを当ててきた。
「ええ、あの人と動物カフェに…」
「お兄ちゃんと?えぇーいいなぁ、私も行きたかった!」
「まって、あの人はあなたの兄じゃないでしょう、お兄ちゃん呼びはまだ早いんじゃないの?」
「んー?私は年上の男性に対する呼び方としてお兄ちゃんと呼んだだけだけどー?それにまだ早いっていうことはじきにちゃんとしたお兄ちゃんに―」
「私お風呂入るから、あなたも早く寝なさいよ」
上げ足を取ろうとする妹の発言を遮り寝るように促す。「明日は休みだからまだいいもーん」っといい自分の部屋に帰っていった。
「はぁ、あの子ったら」
脱衣所で服を脱ぎながらスマホを見る。時刻は23時50分遅くはあるが金曜日であることを考えればあの人はまだ起きていると思う。
【夜分にごめんなさい、ぎりぎりでの提案で申し訳ないのだけど、せっかく3連休ですし、どこかに遊びに行きませんか?】
一度思い切ったのだ、もう一度思い切ってしまっても問題ないと思う…たぶん…